中国における 戦略兵器開発の背景
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(1) 中華人民共和国の誕生と台湾問題
(2) 近隣国との国境紛争
第2次大戦を挟んだ永い国共内戦の末、1949年10月1日に中華人民共和国が成立し、敗れた国民党政権は同年12月に台湾へ撤退した。 台湾の"解放"を目指す中国共産党は、大陸の近傍に位置する国民党政権が支配する金門島及び馬祖島に対し、1954年9月3日から砲撃を 繰り返した。 国民党政権を支持する米国は、1954年12月2日に米台相互防衛条約を締結したが、国共内戦の再発を嫌っていたため、1958年10月23日に 行われたダレス・蒋介石会談で、国民党政権に大陸反攻を諦めさせ、中台関係が現在の状態に固定された。
この時点で米国は国民党政権を中国の正式な政権と認め、国連の議席も国民党政権にあった。ところで、米ソ冷戦の最中にあった米国は、かねてから路線対立のあった中ソ関係が、1969年の中ソ国境紛争勃発で決定的になったの を見て中国への接近を企図し、1972年2月ニクソン大統領が中国を訪問して米中関係の改善を進めた。
当時の中国は1966年から始まった文化大革命の最中にあったが、1976年9月の毛沢東の死と10月の「四人組」逮捕で文化大革命も終息し 、1977年8月に正式に終了が宣言された。 これ以降中国は改革開放路線を進むこととなった1979年1月1日から米中関係は正常化し、これに先立ち1978年12月16日に、米台相互防衛条約は破棄された。 但し、1979年4月に米議会 によって制定された台湾関係法では、中国による台湾への武力行使を米国の重大な関心事とし、台湾の安全が脅威を受けた場合、大統領 と議会は適切な行動を決定するとして台湾防衛の意思を表明すると共に、台湾への防衛的武器の供与を規定した。
一方、台湾では1988年に蒋経国総統死去し、代わって総統に就任した李登輝は台湾の独立路線を指向し、これに反対する中国との対立 を深めた。
1996年3月23日には初の総統直接選挙が実施され李総統は再選されたが、李登輝再選を阻もうとする中国は選挙直前の3月8日〜25日に台 湾近海にミサイル発射し選挙に圧力をかけた。 1999年7月9日に李総統は中台関係を国と国の関係と発言し、中国は台湾の独立を武力で 阻止するとしたため、中台関係は更に緊張を深めた。中国は2000年に行われた次回の総統選挙でも、直前の2月21日に台湾白書を発表して選挙に干渉しようとしたが、3月18日に行われた投 票では台湾独立を主張する民進党の陳水扁候補が李登輝総統の次の総統に選出された。
その後も中国は台湾に対して軍事的圧力を加え続けているが、2004年3月に行われた総統選挙でも陳水扁総統が再選された。
(3) 中ソの路線対立
・中ソ国境紛争 1969年 3月、珍宝島(ダマンスキー島)にて中ソ武力衝突
1997年11月、中ロ首脳会談において中ロ東部国境を確定
・中印国境紛争
インドと中国の国境は、間にネパール及びブータンを挟むため、東部、中部、西部に分かれている。 このうち中部国境はネパール及び ブータンに挟まれたシッキム地方と中国間のヒマラヤ山脈そのものが国境であり、国境紛争は生起していない。
ブータンの東側にあたる東部国境は、1914年に当時インドを支配していた英国とチベットの間で行われたシムラ会議により、ヒマラヤ山 脈の北麓を国境としたマクマホンラインが結ばれた。
チベットの領有を主張する中国は1949年にチベットに侵攻、翌1950年に4万人の人民解放軍が8千人のチベット軍を撃退してチベットを 併合した。
マクマホンラインの無効とヒマラヤ南麓の国境を主張する中国は、1959年3月にダライラマがインドに脱出したのを機に国境に兵力を集 結し、8月に武力衝突を起こすに至った。 その後事態解決に向けた話し合いが行われたが決裂し、1962年10月に本格的な武力衝突に発展 した。
11月に停戦が成立し、更にその後中国の文化大革命の本格化などにより戦況は降着し、現在に至っている。一方西部国境では、カシミール地方の帰属を巡るインド、パキスタンの対立に乗じて中国は、1962年にカシミール東部のラダック地区で 国境紛争を起こし、次いで中国側に張り出したカシミール北部に大軍を侵攻させこれを占領し現在に至っている。
・中越紛争
1979年2月17日〜3月5日、中越紛争
・南沙諸島領有権問題
1988年 3月、南沙諸島周辺海域で中越が武力衝突
(3) 米中関係の変遷
中華人民共和国成立の翌年である1950年2月に、中国とソ連は中ソ友好同盟相互援助条約に署名し、共産主義革命を共に進めようとする 2国間の関係が始まった。 1953年3月のスタリーン死去後あとを継いだゴルバチョフは、1956年2月のソ連共産党20回大会で、歴史的な「スターリン批判」を行っ た。 これに対して中国は同年4月の人民日報でスターリンを擁護し、両国共産党間の亀裂が表面化した。
更に、1960年4月には中国共産党が平和共存政策を批判し、中ソ対立は公然化した。1966年5月に中国では文化大革命が開始され、中国はますます先鋭な路線へと進み、1969年3月の中ソ武力衝突で、二国間関係は頂点に 達した。
その後、1976年9月に毛沢東死去すると中国内の力関係が逆転し、いわゆる「四人組」の逮捕され、翌1997年8月に文化大革命の終了が 正式に宣言され、中国は改革開放路線へと進み始めた。
この時点で両国間の路線対立は解消し、1989年5月に行われた中ソ首脳会談で、両国は党・国家関係の正常化に合意した。
米ソ冷戦の最中において米国は、かねてから路線対立のあった中ソ関係が、1969年の中ソ国境紛争勃発で決定的になったのを見て中国 への接近を企図し、1972年2月ニクソン大統領が中国を訪問して米中関係の改善を進めた。
当時の中国は文化大革命の最中にあったが、1976年9月の毛沢東の死と10月の「四人組」逮捕で文化大革命も終息し、1977年8月に正式 に終了が宣言された。 1979年1月には米中の国交が正常化した。 これ以降中国は改革開放路線を進むこととなった
米中の接近に伴い、限定的ではあったが軍事技術の交流も行われるようになった。ところが1989年6月に天安門事件が発生すると、米国及び西側諸国は中国の姿勢を懐疑的な目で見るようになり、西側諸国と中国の軍事 技術交流も閉ざされた。
1999年3月24日〜6月10日にわたって行われたユーゴ連邦に対する NATO の空爆、いわゆるコソボ紛争では、米国による中国大使館誤爆 事件が発生し、2001年4月には南シナ海を飛行中の米国 EP-3 電子偵察機が中国軍戦闘機と接触事故を起こし、7月まで海南島に拿捕され る事件が起きるなどている。
この様に米中関係は軍事的な緊張を孕みつつも、2001年11月に中国の WTO 加盟が認められ、米国経済においても中国との関係が重要な 地位を占めるに至っている。
(1) 概 観
(2) 台 湾
中国にとって、当面最も切迫した敵は台湾である。 特に台湾独立を武力で阻止すると言ってきた建前上、それを裏付ける兵力を台湾 海峡に終結し、強い意志を内外に示す必要がある。
台湾を武力で制圧する上での最大の問題は米国の存在で、中国には米海軍の空母機動艦隊に対抗できる実力と、沖縄を含む西太平洋地 域の米軍基地を牽制できる戦力が要求される。
更に台湾海峡有事に於いて米国に軍事介入をさせないためにも、米本土を直接攻撃できる長距離核戦力の保持充実が必要になる。一方米国にとっても、ソ連崩壊によるロシアの脅威が低下が相対的に中国の脅威を増大させ、中国の急速な軍事力増強と相まって、中 国が最大の軍事的脅威になりつつある。
このことを裏付けるように、米 DoD の作成したミサイル防衛に関する資料の中に、敵弾道弾の発射地点を中国国内に設定(右図)した ものがある。台湾、米国に次いで中国にとって軍事的脅威となるのはインドで、両国間には過去に国境紛争があったばかりでなく、インドは印パ紛 争で中国が支援するパキスタンの敵であり、また印パ両国の対立原因となっているカシミールも、その一部を中国が支配しているという 現実がある。 またチベットの独立運動をインドが間接的に支援しているとの疑念もある。
この様に中印間には多くの紛争となりうる要因が存在する中インドは核保有国になっており、北京にまでとどく弾道弾を開発している となれば、中国にとってインドは潜在する最大の敵であると言える。
ロシアは歴史的に国境を巡り常に紛争相手国であったが、東部国境が確定した今日では、中央アジア諸国がソ連邦から離脱して以来西 部国境が殆ど消滅したため、国境紛争は無くなったと見られる。
しかしながら共に軍事大国である両国が、新たな原因から再び軍事的緊張関係になる可能性は否定できず、ロシアは中国にとっての潜 在的な脅威対象国であり続けるものと思われる。中越関係は現在正常化してはいるが、南沙諸島の領有権問題を含む中越対立の原因は未解消のままであり、ベトナムは常に紛争再発の 危険を孕む国と言える。
日本は現在、沖縄に米軍基地を置く国として脅威対象国とされていると思われるが、中国が日本の軍事力を脅威と認識しているとは思 えない。 両国間には尖閣諸島の領有権を巡る係争があるが、この問題が武力衝突に至ると中国が見ているとは思えない。
しかしながら、台湾海峡有事の際にわが国が米軍の支援という形で介入することに対しての警戒観があると見られ、更に将来わが国の 防衛力、特に海上戦力が大幅に増強された場合にはわが国を脅威対象国として認識するようになる可能性はある。 その意味でわが国は 中国にとって潜在的な敵国であると言える。韓国は、中国の友好国である北朝鮮と対峙する国として敵性国であるが、当面も歴史的にも中国にとって脅威となる国ではなく、在韓 米軍の存在も現在は中国にとって脅威となる質、量とはなっていない。
しかしながら、もし北朝鮮が崩壊して韓国に吸収された場合には中国と直接国境を接することになり、韓国の軍事力は無視し得ないも のとなるだけでなく、その時点でも米軍が朝鮮半島に駐留することになれば、中国に取って深刻な事態になる。 その意味で韓国は中国 にとって潜在的な敵国であると言える。北朝鮮は朝鮮戦争の際に中国からの援軍に支えられた同盟国であるが、朝鮮戦争終了後は中国一辺倒でなく、中ソ間で微妙にバランス を取った外交を展開してきた。
中国が改革開放路線を歩むようになってから両国間には徐々に溝ができつつあり、北朝鮮の核開発問題で北朝鮮は、必ずしも中国の意 思の通りに動く国ではないことがはっきりしてきた。 隣接する北朝鮮が核武装することは中国にとっても好ましいことではなく、場 合によっては将来脅威になりうる国と認識しているものと見られる。その他、中国西域の分離独立を求めるイスラム勢力の動きを巡る中央アジア諸国との関係、南沙諸島の領有権を巡るフィリピン、イン ドネシア等との関係も、大規模紛争に発展する可能性は低いものの、中国にとって安全保障上の懸案事項と言える。
(3) アメリカ
中国の軍事力はかつて、膨大な規模の陸軍を保持しているものの、海空軍は質的、量的に不十分で、台湾へ侵攻する能力は無かったが 、近年の経済発展に伴い軍事費の急速な増大が続き、1989年以来殆ど毎年10%以上の伸びを示し、今や海空軍兵力は質的にも量的にも台湾 を凌駕し、遠からず台湾への侵攻能力を保持すると見られている。
しかしながら台湾侵攻となれば米軍との直接武力衝突は避けられず、現実的には"切れないカード"となるため、台湾に対する恫喝の手 段としてはミサイル攻撃能力の保持が最も有効な手段となる。
台湾海峡の幅は100km程度で、中国本土から台湾の東端までも200kmしかないため、Scud程度の短距離 TBM で十分攻撃できるが、発射地 点を福建省全域に分散させるためには400km程度の射程が必要になる。
中国は現在、射程300kmの M-11 (DF-11: 右図) と、射程600kmの M-9 (DF-15: 標題写真) を、2003年11月に陳水扁総統が発表したとこ ろによると496基配備しており、米国防総省は今後年間75基以上のペースで増加すると見ている。
台湾を射程とする限りこれら弾道弾は射程を延伸する必要はなく、今後予想される台湾のミサイル防衛システム配備に対しては、配備 数量の増大で十分対抗できると見られるが、PAC-3 などでは対抗不能な MIRV 弾頭化により対抗しようとしている。
また、現在装備化が進められていると見られる射程300〜400kmの C-603/YJ-63 対地攻撃巡航ミサイル(右図)や、射程600/650kmの HN-1 は台湾を強く意識した兵器と見られるが、共に亜音速であるため台湾の厚い防空網をどの程度突破できるか疑問である。
これに対し潜水艦発射可能な対地攻撃巡航ミサイルである射程1,800kmの HN-2(潜水艦発射型 HN-2C の射程は1,400km)は、亜音速で はあるが、太平洋上から発射して防空網の比較的手薄な台湾の東海岸方向から攻撃できるため、有効な攻撃手段になり得る。
ただ、射程3,000kmの HN-3 や、射程4,000kmと伝えられる開発中の HN-2000 は台湾攻撃用兵器とは考え難い。
(4) インド
・米国本土 中国が台湾への武力侵攻に踏み切った場合米国の軍事介入が当然予想されるが、中国が米本土を核攻撃できる ICBM を保有していれば 、米国の軍事介入は侵攻部隊の撃破などの限定的なものに限られ、中国軍の策源となる中国本土を空爆するなどの本格介入はしに難くな ると思われる。
更に将来、中国がインドに対して核攻撃を行った場合、台湾に対して限定的な戦術核使用をした場合、中米間で大規模な軍事衝突が生 起したなどの場合に、米国からの核攻撃、反撃を抑止するためにも、中国が米本土を核攻撃できる能力を保持したいと考えるのは当然と 思われる。中国が米本土まで到達する ICBM の射程は、満州から発射した場合で米本土太平洋岸北部までとどくためには8,000km、米本土全域まで とどくためには12,000km必要となる。 必要性の是非は兎も角として、中国内のいずれの地点から発射しても米本土全てを射程内に収め るには15,000kmの射程が必要となる。
またハワイ、アラスカには最小限6,000km、発射地点の自由度を確保するためには8,000kmの射程が必要になる。
この様な能力を持つ ICBM として中国は、
・DF-31: 最大射程 8,000km(2003年装備化)
・DF-41: 最大射程12,000km(開発中、2010頃実用化か)
・DF-5 : 最大射程12,000〜15,000km(1981年装備化:右図)
を装備又は開発している。またこの他にも途中で開発を中止したものの、かつて
・DF-14: 最大射程 8,000km
・DF-22: 最大射程 8,000km
・DF-6 : 最大射程15,000km
などの開発を進めていたことがある。・グアム島の米軍基地
グアム島は沖縄と並んで、中国にとって直接脅威となる米軍基地である。 もし米本土を核攻撃する事態になれば、当然同時に攻撃し 無ければならない対象となると共に、限定的な非核戦に於いても状況によっては報復攻撃の対象となりうる。
中国本土からグアム島までの距離は2,800kmであるため、攻撃には3,000〜4,000kmの射程が必要となる。 弾頭には核だけでなく、通常 弾頭の使用も考えられ。
ミサイルとしては射程3,000kmの DF-3A か射程4,750kmの DF-4(右図)が使用可能であるが、巡航ミサイルの使用も考えられる。 そ の場合には現在開発中と伝えられている射程4,000kmの HN-2000 が最適と思われる。
・沖縄の米軍基地
沖縄の米軍基地もグアム島の基地とほぼ同じ軍事的価値を持つ。 このためグアム島の場合とほぼ同じ攻撃シナリオが考えられる。 ただ沖縄の場合グアム島と違うのは中国本土からの距離で、浙江省から600km強と極めて近い距離にある。
このため沖縄の攻撃には M-9 (DF-15:標題写真) が射程600kmとぎりぎりではあるが到達圏内にある。 射程600kmの巡航ミサイル HN-1 も使用可能であるが、わが国が沖縄に構築している厚い防空網を突破することは難しい。
しかしながら中国海軍が装備する Su-30MKK や Su-30MKK2 が沖縄近海に飛来して、射程110kmの対艦ミサイル Kh-31A(右図)や、射程 200kmの Kh-31P ARM を発射する事ができる。
これらの Kh-31 ミサイルは高度15km (50,000ft) を Mach 3.0 で、また高度200mを Mach 2.5 で飛行し10gでの運動が可能であること から、発射された場合にはミサイルの要撃は極めて困難と見られている。・空母機動部隊
米軍が台湾に駐留していない今日、中国が台湾への武力侵攻を考えた場合に最大の障害となるのは米海軍空母機動艦隊の存在で、もし 同艦隊が台湾海峡で行動した場合には、武力侵攻はまず不可能となる。
ところが現在は中国が、海軍に Su-30MKK や Su-30MKK2 を配備し、Kh-31A、Kh-31P を装備しているため、米空母機動艦隊は中国本土 に接近することができない。
中国にとって今後もこの戦略は変わらず、より高速高機動で長射程の対艦ミサイルを追求するものと見られる。
(5) ロシア
インドは1974年5月18日に初の地下核実験を行い、米、ソ、英、仏、中に次いで核保有国となった。
インドの核運搬手段は、ほぼ弾道弾に限定されるとみられ、現在では射程1,500kmの Agni U を装備し始めているが、到達可能範囲は チベット及び新彊ウイグル自治区までである。
しかしながらインドは中国の主要部分を射程に入れる AgniV を開発中で、2004年にも試射を行う計画である。 Agni V は北京を も射程内に収める射程3,000kmの IRBM であるが、射程を5,000〜6,000kmに延ばすことができるとの報もある。
インドがパキスタンを射程内に収めるのであれば、射程700kmの Agni T で十分であり、Agni U 及び AgniV の開発は中国を意識し たものとみられている。一方インドは中印国境に近くに多くの主要都市があり、デリー/ニューデリーは国境から300km、カルカッタでも600kmしかない。 比 較的国境から離れているインド中部のボンベイやハイダラバードでも国境から1,500km以内である。
しかしながらインド南部にも軍事基地を擁する IT 都市バンガロールがあり国境から1,900km離隔している。このため中国がインドを弾道弾の火制するには、デリー/ニューデリーであれば射程600kmの M-9 (DF-15) でも可能であるが、インド 中部までも火制するためには射程1,800kmの DF-21 が必要になる。 いずれも中印国境に近いチベット南部から発射した場合で、発射可 能範囲をチベット全域に拡大するためにはインド北部に対して1,000〜1,200kmの射程、中部に対して2,500kmの射程が必要になる。
更にインド南部を含む全土を射程におさめるためには、最低限2,400kmの射程が必要で、チベット地域のいずれの地点から発射してもイ ンド全域を射程内に入れるためには3,000kmの射程があることが望ましい。 この目的に対応できるのは、射程4,750kmの DF-4 か、3,000 kmの射程を有するやや旧式の DF-3A と言うことになる。
いずれの場合に於いても巡航ミサイルの使用も考えられ、射程600kmの HN-1、1,800kmの HN-2、3,000kmの HN-3 が適している。 YJ-63 は射程が300〜400kmと短いが、H-6 爆撃機が国境線付近上空から発射すれば、北部の主要都市を攻撃することができる。
(6) その他の潜在仮想敵
1969年の武力衝突を頂点として中ソ関係が中ソ全面戦争の可能性を否定できないほどに高まった当時に中国は、そもそもグアム島の米 軍基地を攻撃するために開発された DF-4 を、モスクワを攻撃できるように射程を延伸して、最大射程を4,750kmとした。
厚い ABM組織に守られたモスクワに対して DF-4 がどの程度有効であるか疑問であるが、対立する核大国ソ連に対して、その首都を核 攻撃できる力を誇示することにより戦争抑止力と使用としたと思われる。その後両国間の対立が解消した現在では、敢えてモスクワを目標とする IRBM を開発する必要はなくなったし、形式的な抑止力であれ ば射程8,000kmの ICBM である DF-31 で用が足りる。
実質的に唯一残った中ソ国境を挟んで対峙するシベリアでは、ウラジオストク、ハバロフスクなどの主要都市は国境沿いにあり長射程 のミサイルでなくても火制できる。 Sukhoi戦闘機など軍用機生産の最大拠点であるコムソモリスクも国境から300km程度であり、M-9 ( DF-15) や M-11 (DF-11) の射程内にある。
今後中央アジアの CIS加盟国と中国の間で何らかの紛争が生起した場合に、ロシアが軍事介入して中露武力衝突が再発する可能性を全 面的に否定することはできないが、現在及び近い将来、中国が特にロシアを相手とする長距離ミサイルを開発するとは考え難い。
中国にとって、台湾、米、印、露以外の潜在的な仮想敵国は、現在軍事的な脅威になってはおらず、また現在の軍事力増強等の規模、 速度が将来これらの国々が脅威になってくることを示してもいない。 このため中国がこれらの国々に対してミサイル開発などの特別の 対応策を講じるとは思えず、現在の編成装備で十分対応可能と見ているものと思われる。 ・日 本
日中の離隔距離は、上海〜長崎で800km 山東半島〜東京で1,800km 吉林省延吉〜東京で1,200kmであり、射程1,800kmの DF-21 の射程 内である。 更に射程4,750kmの DF-4 や、旧式ではあるが3,000kmの DF-3A であれば余裕の攻撃ができる。
今後、沖縄攻撃能力の必要性から M-9 (DF-15) の射程が600km以上に延伸された場合、或いは射程1,000kmと伝えられている M- シリー ズ最大の M-18 (DF-11) の開発が完了すれば、これらの MRBM で九州の攻撃が可能になる。
・モンゴル
かつてソ連はモンゴルに、シベリア軍管区とは別のモンゴル派遣軍を駐留させており、モンゴル〜中国国境が軍事的には中ソ国境にな っていたが、現在では数百人規模のロシア軍と2万人程度のモンゴル陸軍しかなく、中国がその気になればミサイル攻撃をするまでもなく 、地上部隊で一気に蹂躙できる状況である。
・ベトナム
中越間の武力衝突は収まっているものの、武力衝突に至った原因が解決したわけではない。 特に南沙諸島を巡る領有権紛争はフィリ ピン、マレーシアなどの周辺諸国の利害も絡むため現在は膠着状態にあるが、いつ再燃してもおかしくない状況である。
しかしながら中越紛争が両国間の全面戦争に発展することは考え難く、例え大規模紛争になったとしても中国にとっては本格的な軍事 紛争の規模にはならない。
・中央アジア諸国
中国と国境を接するアフガニスタン、タジキスタン、キルギス、カザフスタンの諸国と中国の間に、現在外交課題があるとは聞いてい ない。
しかしながら中国西域で分離独立運動を続けているイスラム武装組織が中央アジアのイスラム諸国に拠点を設け、中国がこれを掃討す るため越境攻撃をした場合にはこれら諸国との武力紛争に発展する可能性もある。 更にもし、これら諸国にイスラム原理主義政権が誕生 した場合には、急速に緊張が高まることも考えられる。
この場合、もし軍事衝突が生起したとしても正規軍同士の大規模な戦闘にはなりにくく、作戦の主要局面で長距離ミサイルが使用され るとは考え難い。
・韓国、北朝鮮
もし何らかの事情で中国が北朝鮮を武力制圧する必要が出た場合には、地上部隊を大量に投入して全土を制圧することを考えるであろ う。 この場合北朝鮮の抵抗を阻止するため火力部隊を投入することも考えられるが、彼我が接触した状態で作戦が進行すると見られる ことから、射程の短い弾道弾等が使われることはあっても長射程ミサイルの投入は考え難い。
もし北朝鮮が崩壊して各国が全土を支配する様になったとしても、朝鮮戦争時に国連軍が鴨緑江に迫ったときとは違い、中国にとって 軍事的脅威が切迫するとは思えず、南北統一に伴う国内混乱が落ち着くまで、中国は対応の時間的余裕が得られる。 このため、現時点 で中国軍がこの様な状況に対処するため具体的な準備を行っているとは考え難い。
(1) ICBM
(2) IRBM
・12,000km級 このクラスの ICBM として中国は1981年に IOC となった射程13,000kmの DF-5 だけを保有している。 米 DoD は、DF-5 の2002年頃の 保有数は20基であるが、2005年には30基、2010には60基になるとみている。
また、中国は米国の BMD に対抗するため、複数弾頭化を図っているとも言われている。この他に射程12,000kmの ICBM で、開発中の DF-41 (CSS-X-10) が伝えられており2010年頃に実戦配備されると見られている。
・8,000km級
このクラスの ICBM はアラスカ、ハワイ及び米本土太平洋岸を射程に収める。 12,000km級より小型化が望めるため移動発射型の開発 も行われており、現在中国が保有しているのは配備が開始されたばかりの DF-31 (CSS-9) だけであるが、今後重点的に装備される可能性 がある。
中国がこのクラスの ICBM に力を入れていることは、装備化には至らなかったものの過去に射程7,000kmの DF-14, DF-22 の開発を行っ ていたことからも窺える。
(3) MRBM / SRBM
・5,000km級 中国は1980年頃から、モスクワを射程に入れる射程4,750kmの DF-4 を20〜30発保有しているが、今後このクラスの IRBM が増強される 可能性については疑問である。 むしろ IRBM は3,000km級を重点的に整備すると思われる。
・3,000km級
このクラスの IRBM の存在は1971年に配備が開始された旧式の DF-3A しか伝えられておらず、その後継機種の情報もない。
しかしながら射程3,000kmの IRBM は、グアム島、インド南部を射程内に収めと共に、わが国全域を十分に射程内に置く重要な役割があ り、今後移動発射可能で多弾頭を搭載する新型が出現することが予想される。 新型3,000km級 IRBM として、射程1,800kmの MRBM であ る DF-21 の射程延伸型が出現する可能性もある。
現在中国は50〜80発の DF-3A を保有していると見られている。
(4) 対地巡航ミサイル
・1,800km級 このクラスの MRBM としては過去に射程1,700kmの DF-25, DF-61 が開発中止になり、当初 SSBN 搭載用として開発されていた JL-1 が 、陸上発射型の DF-21 として誕生した。 このため DF-21 の発射機(右図)は潜水艦の発射管をそのまま引き出したような異様な形状 をしている。
1990年代末に中国は36〜50発の DF-21 を保有していると見られ、2001年12月には DF-21 の多弾頭化にも成功している。
これほどまでに中国がこだわった1,800km級は、インド中部までを射程内に収め、射程3,000kmのインドの Agni V を、少なくとも中国 の主要部分を射程内に入れることができない遠方に追いやる効果がある。
またこのクラスの MRBM は、わが国の主要部分を射程内に収め、在日米軍基地を牽制することもできる。
・1,000km級
中国は射程1,000kmの M-18 を1987年の北京防衛展で初めて公開した。 弾頭は400〜500kgの通常弾頭で CEP が200mということから、 戦術弾道弾であると見られる。 射程600kmの M-9 の射程延伸型の可能性もある。
このミサイルの使用目的としてはインド北部と、沖縄の攻撃以外に考え難い。 わが国本土では佐世保を含む九州が射程内に入る。
ただ、1996年3月13日に台湾海域に向けて発射された4発の弾道弾は M-9 ではなく M-18 であったとの報もあり、台湾攻撃用にも考えて いる可能性がある。・600km級
1995年に配備が開始された M-9 (DF-15: CSS-6) で、M-11 (DF-11: CSS-7) と共に台湾に向け配備されている。 台湾の陳水扁総統は 2003年11月に、台湾に向けた中国の弾道弾の数は496基と発言しており、米国防総省は、今後 年間75基以上のペースで増加すると見てい る。
M-9 の改良について度々伝えられ、GPS を用いた精度向上が言われている。 海外情報筋は M-9 は台湾及び沖縄を射程に収めるとみ ている。 M-9 はインド北部に対しても有効な射程を有することから、今後相当数が装備されることになると思われる。
・300km級
300km級 SRBM には M-9 と共に1995年に配備が開始された M-11 があるが、装備数は M-9 より少ない模様である。
M-11 は主として台湾に向け使用されるが、インド北部に対しても一部で使用可能である。 M-11 はそれ以外に Scud などと同様に野 戦部隊の長距離火力としての用途も考えられる。M-11 には全長が2m長い Mod 2 があり、射程が長く、弾頭が大型化し、精度が向上していると見られているが、詳細は不明である。
(5) 対艦巡航ミサイル
・3,000〜4,000km級 現在開発中の Tomahawk に似た巡航ミサイル HN-3 は射程3,000km、巡航速度 Mach 0.9 で、2005年頃実用化すると見られている。 ま たかつて中国が射程4,000kmの HN-2000 巡航ミサイルを開発中と伝えられた(Jane's Defence Weekly 2000.09.06)ことがある。
中国にとって射程3,000〜4,000kmの巡航ミサイルの攻撃目標としては、まずグアム島が考えられる。 HN-3 や HN-2000 の存在は、米 軍の対中国戦略の重要拠点であるグアム島の米軍部隊に、弾道弾と巡航ミサイルへの同時対処を強要することになり、極めて有効である。
更に HN-3 は潜水艦からの発射も可能(HN-3B型)言われているため、米本土攻撃も十分に可能である。3,000〜4,000kmの射程はインド南部の攻撃も可能な距離であるが、ヒマラヤ山脈を越えインド亜大陸を縦断してインド南部へ至るのは 、防空側に捕捉、迎撃の機会を多く与えるため、巡航ミサイルの効果的活用法とは思えない。 中国西域から発射してシベリアを横断し 、モスクワなどヨーロッパロシアの重要拠点を攻撃することも能力的には可能である。
・1,800km級
射程1,800kmの HN-2 は中国本土からから発射して洋上を大きく回り込み、防空網の比較的手薄な台湾の東海岸方向から攻撃でき、また 射程1,400kmの潜水艦発射型 HN-2C も太平洋上から発射して東海岸方向から攻撃できるため、有効な攻撃手段になり得る。
更に潜水艦発射型 HN-2C は、グアム島や米本土西海岸の攻撃能力も有する。この他に陸上発射 HN-2A,-2B は西日本一帯やフィリピンを射程に収めるほか、潜水艦発射型 HN-2C は東アジア全域を攻撃可能な能力 を有し、戦略上極めて重要な意味を持ち得る巡航ミサイルである。
・600km/300km級
いずれも台湾及びインド北部の攻撃に使用可能な巡航ミサイルである。 いずれも中国本土上空からの発射で攻撃目標を射程に収める ことができる。
これらの巡航ミサイルは亜音速であり台湾やインドが保有する SAM での迎撃が可能であるが、低空から侵入するため SAM の射程が制 限され、これに対応するため防空システムを特定の重要地域に集中させ、他の地域の防空網に間隙を作る効果が期待できる。
更に弾道弾での攻撃と併用することにより、相手の防空努力を分散させる効果もある。射程300kmの YJ-63 (C-603) は SilkWorm ファミリで H-6 爆撃機から発射されるが、射程600kmの HN-1 には陸上発射型の HN-1A と、 空中発射型の HN-1B がある。
SilkWorm ファミリの YJ-63 は胴径が76cmで発射重量が2,440kgもあるが、ロシアの Kh-65SE/SD を母体にしたとみられる HN-1 は、射 程が YJ-63 の倍であるのにかかわらず、大きさは胴径が50cmで発射重量が1,200kgと半分になっている。
爆撃機からの発射は運用の制限が大きく、母機も脆弱であるため、YJ-63 は HN-1 が実用化するまでの繋ぎとも見られる。中国は HN-1 の戦列化を急ぐと共に、今後は英仏の SCALP EG/Storm Shadow(射程250km) 、ドイツの Taurus KEPD 350(射程400km)や、米空軍の AGM-158 JASSM(射程370km)の様な巡航ミサイルを出現させてくる可能性がある。
米空母機動艦隊を台湾海峡及び台湾近海に近づけないと言う目的では、現有の Kh-31A/P が迎撃困難であることや、Su-30MK の航続距 離が十分である(フェリーで6,990km、最大5,200km、通常3,000km)ことから、中国は満足できる能力を保持している。
米空母には E-2C AEW&C機が搭載されているため、低空接近しても Kh-31 の発射前に発見されることは避けられないが、Su-30MKK には ロシア製の R-77 (AA-12) AAM のほか、中国製の SD-10 (PL-12) AAM を搭載しているため、AIM-120 AMRAAM を装備する米艦載機と互角 に対抗して Kh-31 を発射できる。
このため中国にとって当面、Kh-31 を凌ぐ性能を有する対艦巡航ミサイルの装備は必ずしも急務では無いが、将来において米艦船の対 ミサイル能力が向上した場合に備えてのロシアの P-800 Yakhont(右上図)や、開発中の P-900 Alfa の 導入も検討されるものと思われる。
また中国が最大速度 Mach 2.0〜2.5、最大射程100〜120kmの Ramjet推進対艦ミサイル YJ-12(右下図)を開発中とも伝えられている。