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1. 概  観

1・1 全  般

1・1・1 総  論

 ISISとの戦いが漸く収まりかかってきた中東で、米国のイランとの対立が全面的な武力衝突も懸念される程緊張している。

 米朝首脳会談が実現した北朝鮮の核開発問題は、結局北朝鮮に核放棄の意思はなく、駆け引きだけが続けられている。

 欧州では英国のEU離脱やトルコの反西欧行為、更にトランプ米大統領への不信からNATOの結束が懸念されてきた。 これに代わってEUが独自戦力を持とうとする動きが台頭してきた。

 中国の軍備拡張は相変わらず旺盛であるが、周辺国の警戒感も高まってきている。

 わが国では2018年末に決まった防衛計画大綱と中期防の達成を目指して動き出したが、防衛費の伸びが周辺国を含む世界主要国に比べて極端に少なく、実質マイナスとも言える状況が続いている。
 こうしたなか、中東情勢の緊迫に対応して海上自衛隊の派遣が決まった。 規模は派遣と言うにはほど遠いが、全面戦争が起こるかも知れない地域への自衛隊投入は初めてで、その意義は大きい。

1・1・2 係争地域の情勢

 2019年に世界では大規模な武力衝突は生起していないが、シリア北部でのトルコ、クルドを交えた三つ巴の戦闘は続いており、イエメン内戦は混迷の度を深めている。
 イランの核開発がトランプ政権により振り出しに戻されたため、ペルシャ湾とホルムズ海峡での緊張がかつてない程の高まりを見せている。

 イスラエルとシリアやハマス、ヒズボラとの戦闘も継続しており、ここにイランが加わり、いつでも大規模衝突に発展してもおかしくない状況にある。

 一時静けさを維持していたインドとパキスタンの武力紛争も多発している一方で、中印の緊張は静かな状況になっている。
 またウクライナ東部も小康状態にある。

1・1・3 紛争潜在地域の情勢

 東シナ海ではわが国の堅い守りもあり、状況に大きな変化はない。 相変わらず中国が挑発行動を行うも、中国が尖閣海域を実質統治しているとする名目つくりのためで、本格的に奪取しようとしているものではない。

 南シナ海では中国が人工島の軍備を進め、既成事実化しつつある。

 欧州ではモルドバ、コソボ、キプロスなど忘れ去られつつあった過去の紛争地域で緊張が再燃しそうな状況にある。

 ジョージアなナゴルノカラバフを巡るアルメニアとアゼルバイジャンも、2019年には目立った動きはなかったものの目が離せない。

 地球温暖化で氷が溶けて海路が開けてきた北極海では、米露加など沿岸諸国に加えて遙かに離れた中国が割り込んで存在感の示し合いが行われている。

1・1・4 世界各国(周辺国を除く)

 トランプ米大統領の外交方針が民主主義の擁護や米国の利益よりも、自己の選挙目当ての観があるためよく読めない。
 ただ、各種施策や装備の方向性を見ると、インド太平洋重視は主として海軍や海兵隊で、陸軍の目は再び欧州に向いてきたようにも見られる。

 ロシア経済の低迷からロシアの軍備は再び核戦力重視に傾いているように見られる。 このため次世代の戦闘機や爆撃機開発は進んでいないように思える。

 米国の姿勢に疑問を抱く欧州では、独自防衛力確保に少しずつ動き出した。 特にEU独自の軍事力に否定的であった英国のEU離脱を見て、今後更にその傾向が強まると思える。
 S-400導入、シリアへの侵攻、キプロス問題の再燃、リビアへの派兵などにより欧州諸国はトルコに強い疑念を持っており、トルコは既に実質的にはNATOの一員から外されている模様である。

 今後はコーカサス諸国の状況、北極海の状況からは目を離せない。

1・1・5 東アジア諸国

 経済不振にもかかわらず中国が大がかりな軍備増強を続けており、特に初の国産空母や強襲揚陸艦の就役など艦船の増強が目覚ましい。 また世界に先んじて超高速ミサイルの装備化も行っている。

 北朝鮮は核放棄をちらつかせながら米国を翻弄して時間を稼ぎ、高度なSRBMやSLBMの発射試験を繰り返し、試験設備の改良強化も進めている。

 韓国も中国や北朝鮮に劣らぬ速度で軍事費の増額を行い、間もなくわが国の防衛費を凌ぐ情勢になってきている。
 こうしたなか武器輸出にも意欲的で、艦船、攻撃機、SPHなどの陸戦兵器をアジアだけでなく欧州や豪州、中東など広く世界中に輸出している。

 中国の軍備増強と度重なる威嚇に晒されている台湾は、米国が次々と台湾支援の法制を実施し支えられている。

 南シナ海での中国からの強引な武力を背景とした威嚇に悩む東南アジア諸国は米国への依存を高めようとしている。 こうしたなかフィリピンだけは対中姿勢が定まっていない。
 東南アジア諸国で唯一シンガポールは、艦船や陸上装備で欧米諸国に引けを取らない開発と生産を行っている。

 大洋州では中国が島嶼国の取り込みを図っているのに対し、オーストラリアが支援の実施などで島嶼国の確保に努めている。
 こうしたなかで米海兵隊のオーストラリア北部駐留が大きな意味を持ち始めている。

1・1・6 国 内 情 勢

 南西諸島を中心に中国の脅威がますます高まり、陸海空自衛隊と海上保安庁更には警察の一部でもこの地域での態勢を強化している。 特に陸上自衛隊は奄美大島に続き宮古島へ部隊を配置し、更に石垣島への部隊配備を準備している。
 DDHを空母化する計画も実行段階に入り、F-35Bの導入も決定した。

 ミサイル防衛ではAegis Ashoreの配備計画が進められているが、レーダの新規開発や配備場所選定の混乱などにより、運用開始時期は遅れそうな状況にある。
 一方で03式中SAMにBMD能力を付与知るとか、監視衛星の必要性など、次世代を睨む動きも進められている。
 更に宇宙やサイバなどを含むマルチドメインでの戦いに向けても、部隊新編などが進められている。

 海上自衛隊の海外派遣と各国軍との共同訓練などで国際的な防衛協力の準備が進められている。 陸上自衛隊もフィリピンやオーストラリア、更にはインドまで出向いた共同訓練を実施した。
 特に注目されるのはホルムズ海峡の緊張を受けた自衛隊の派遣で、護衛艦と哨戒機を派遣する閣議決定が成された。

 装備面ではF-2後継をわが国主導で開発することが決まり、令和2年度予算案に初度経費が計上された。 またそのための各種部分試作も進められている。

 ただこれらを支える防衛予算は微増が続き、大幅増額を続ける世界各国、とりわけ周辺国との差異がますます目立ってきている。

1・2. 係争地域の情勢

1・2・1 中  東

1・2・1・1 イラン
 トランプ大統領が1月に2018年にイラン核合意から一方的に離脱したことから、イランを巡る核開発問題が振り出しに戻った。
 これに伴いイランは高性能遠心分離機の稼働開始したり、ウラン濃縮濃度を高めるなど核開発の一部を再開した。

 米国は4月にイラン革命防衛軍をテロ組織に指定すると共に、9月に生起したサウジアラビア石油施設に対するUAVやCMによる攻撃をイランの仕業と断定し湾岸地域に米軍を増派するなど、対決姿勢を強めている。

 一方イランは各種MRBMの発射試験を繰り返すと共に、CMやCM/UAV両用機、各種UAVを開発し、潜水艦の建造や各種国産中距離SAMの配備も進めている。 但し2018年まで報じられていた国産戦闘機の開発については報じられていない。
 またイラクやシリアなどイスラム教シーア派諸国との連携を強め、更にイエメン内戦ではシーア派武装組織を強力に支援している。 更に中露に支援も求め、3ヵ国海軍の共同演習も実施した。

 これに対しスンニ派諸国はイスラエルをも取り込んで、連携してイランへ対抗する姿勢を示している。
 特に、クウェート、サウジアラビア、バーレーン、UAEなど各国はイランからのBM攻撃に備えて、Patriot PAC-3やTHAADなどBMD装備の導入に力を入れている。

1・2・1・2 ホルムズ海峡の緊張
 5月12日午前にホルムズ海峡に向かっていたサウジアラビアのタンカー2隻が妨害行為をうけ船体に損傷を受けたことから、ホルムズ海峡の緊張が一挙に高まった。
 同海峡でのタンカーに対する襲撃は6月にも日本やノルウェー船に対し、7月には英国とUAE船に対し行われた。
 更に6月にはイランが米海軍のGlobal Hawkを撃墜する事件が起きた。

 そのため米国はホルムズ海峡での警戒に当たる有志連合軍の設立を呼びかけたが、これに応じたのは英国、オーストラリア、サウジアラビアなど9ヵ国に留まった。
 一方独仏など欧州各国、インドと共にわが国も、有志連合には加わらずに独自に警備部隊を派遣することになった。

1・2・1・3 イエメン内戦
 イエメン内戦はスンニ派の政権側を支援するサウジアラビアと、シーア派の武装組織であるフーシ派を支援するイランの代理戦争となってきており、フーシ派はBMやCM、UAVなどによりサウジアラビアに対して度重なる攻撃を仕掛けている。
 サウジアラビアはフーシ派の攻撃に使われているBM、CM、UAVはイラン製としてイランを非難している。
1・2・1・4 シリア内戦
 シリアのアサド政権を支援するため、ロシア軍がTartus に新たな施設の建設したほかAl Qamishli にヘリ部隊を配置するなど、介入の度を高めている。
 アサド政権軍はロシアの支援の元、反政府勢力最後の拠点となっている北部Idlib県での攻勢を強め、反政府勢力を支援しているトルコ軍に肉薄し、一部ではトルコ軍の監視哨を包囲するに至っている。

 この間もまたアサド軍による化学兵器使用の疑惑が持たれている。

1・2・1・5 ISIS の掃討
 クルド軍を主力とするシリア民主軍 (SDF) が2月にISISが最後の拠点としているDeir el-Zourを制圧し、ISISの支配地域はほぼ消滅した。

 しかしながらトルコがクルド軍が支配していたシリア北部に侵攻したため、対ISIS戦にあたるクルド軍の兵力が転用されたことから、ISISの勢力回復が懸念されている。

1・2・1・6 クルド問題
 シリア民主軍 (SDF) 主力として対ISIS戦にあたってきたクルド軍は、トルコのシリア北部に侵攻によりその支配地域を大きく失った。

 クルド軍の働きで対ISIS戦を成功させてきた米軍はトランプ大統領の指示に従いシリア北部からの撤退しクルド軍を裏切った。 これについては米国議会が、米軍の性急な撤退に反対する内容の法案を可決しており、米中央軍司令官も撤退に警鐘をならしている。

1・2・1・7 カタール情勢
 カタールとサウジアラビアの対立は依然として続いている。

 こうしたなかカタールと米国の関係は良好で、カタールは米国からPatriotを取得すると共にTHAADの売却も要求している。 また米特殊部隊とカタール軍特殊部隊による対テロを想定した合同演習も行われている。

 更にトルコとの関係も良好でトルコ軍がカタールに駐留しており、高級機多の建設も進められている。

1・2・1・8 その他の中東情勢
 イラクではイランが支援する武装勢力が米大使館周辺に迫撃砲弾を打ち込むなど、新たな状況の不安定化が懸念されている。

 また米国が進めるアラブ版NATO構想の中東戦略同盟 (MESA) からエジプトが離脱したことで、イラン封じ込めを狙って計画を進めるトランプ政権にとって痛手となっている。

1・2・2 イスラエル
1・2・2・1 イスラエルの地位
 米国務省が3月に、パレスチナ代表部として機能しているエルサレム総領事館をエルサレムに移設された駐イスラエル大使館に吸収すると発表したほか、トランプ米大統領がゴラン高原でのイスラエルの主権を認める時が来たと表明したり、11月にはヨルダン川西岸のユダヤ人入植地は国際法に違反していないとの見解を示すなどイスラエル寄りの姿勢を示している。
 ユダヤ人入植地問題についてはEUが声明を出し、全ての入植活動は国際法上違法だと強調した。
1・2・2・2 B M D
 米陸軍のTHAAD 1個中隊が3月に、初めてイスラエルに一時的に配置された。 イスラエルに展開した米陸軍のTHAAD中隊はイスラエルの多層BMD組織に組み込まれ共同BMD演習を行った。
 THAADは3月末に撤退した。
1・2・2・3 防空システムの見直し
 イスラエルはサウジの石油施設が9月にCMとUAVで攻撃されたのはイランによるものと断定した。
 この結果を受けイスラエルはDavid's SlingとPAC-2に頼っている防空組織の見直しに迫られている。
1・2・2・4 対シリアの戦
 イスラエル軍は毎月2~3回の割合でシリアへの空爆を繰り返している。

 空爆の目標の多くはシリアにあるイラン軍Qods部隊やシーア派民兵の拠点で、ヒズボラ幹部の自宅も目標となった。

1・2・2・5 対ヒズボラの戦闘
 イスラエルはレバノンのヒズボラ施設をUAV攻撃したほか、レバノン南部ヒズボラ関連の目標に対し砲撃も実施した。
1・2・2・6 ガザでの戦闘
 ガザからのロケット弾攻撃と、その報復としてのイスラエル軍による空爆等が繰り返されている。

 ガザから発射されたロケット弾は1回で200発にのぼることもあり、飛来するロケット弾についてはIron Domeで90%以上迎撃しているという。

1・2・2・7 隣接国以外への攻撃
 イスラエルは7月にイラク国内で親イラン民兵組織の武器庫を空爆しいた。
1・2・3 インド対パキスタン
1・2・3・1 インド対パキスタンの外交関係
 インドが2月、パキスタンを拠点とするイスラム過激派の治安部隊へのテロに対する措置として、パキスタンに付与していた最恵国待遇 (MFN) を取り消した。
 インドは1996年にパキスタンにMFNを付与したが、パキスタンは2011年にインドにMFNを付与すると決めたがで実行していない。
1・2・3・1 武力衝突
 2月にパキスタンを拠点とするイスラム過激派がインドの治安部隊に対しテロを行ったことから、両国の武力衝突が続いた。
 この際には両国空軍も投入された。

 両国の砲撃の応酬は3月、10月、12月にも行われている。

1・2・3・2 ジャム・カシミール州自治権
 ヒンズー至上主義を掲げてるインド人民党を与党とするモディ政権は、全国で唯一イスラム教徒が多数派のジャム・カシミール州の自治権の剥奪を決め、コビンド大統領が8月に自治権を剥奪する大統領令に署名した。

 この結果、住民の抵抗運動激化や、分離独立を狙う過激派の活発化が予想され、全国的な治安悪化につながる恐れがある。

1・2・4 中国対インド
1・2・4・1 中印国境
 インドが中国との国境沿いで大規模な道路整備を計画していると報じられ、インド側のインフラ整備が進められている。
 また、インド空軍が中国との国境に近いインド北部の基地に次世代型耐爆格納庫多数を建設する工事を開始することを明らかにした。
1・2・4・2 インド洋
 インドが1月にアンダマンニコバル諸島に1,000mの滑走路を持つ基地を開所すると発表した。
 同基地は当初ヘリや洋上哨戒機が使用するが、今後滑走路を戦闘機や他の航空機も使用できる3,000mに延長する計画であるという。
1・2・5 ウクライナ
1・2・5・1 ロシアとの抗争
 2018年11月に生起したケルチ海峡事件を受けロシアとウクライナの緊張が高まっている。 この事件について国際海洋法裁判所は5月に、乗員の即時解放と拿捕艇の返還を命じたが、ロシアは同裁判所はロシアとウクライナの係争事案を裁定できないと主張する声明を発表し反発した。
 結局ロシアは11月に拿捕していたウクライナ海軍艇をウクライナに返還した。

 NATOは4月の外相会議で併合したクリミア周辺で軍事力を増強しているロシアの脅威がさらに高まっているとして、非加盟国のウクライナや黒海沿岸のジョージアとの間で、海軍の訓練や合同軍事演習などの軍事協力を強化することを決めた。
 米国も12月に、ウクライナに対しATGMのような殺傷兵器を軍事援助に追加することを議会に要求すると共に、ウクライナ軍の近代化をNATO軍との最大規模の年次演習Rapid Tridentで検証した。

1・2・5・2 EU, NATO 加盟問題
 ウクライナで3月に憲法改正が行われ、欧州への統合路線を目指す国の方針を憲法に明記した。
 またゼレンスキー新大統領も、ウクライナがNATOやEUに正式加盟したいとした従来の方針に変わりはないと言明した。
1・2・5・3 大統領の交代
 ウクライナで4月に大統領選挙が実施され、新人のタレント候補ゼレンスキー氏がポロシェンコ現大統領に大差を付け当選した。
 ゼレンスキー氏はロシアとの協議にも前向きで、悪化していた両国関係に影響を与えそうである。
1・2・5・4 東部での兵力引き離し
 ウクライナ東部の紛争で停戦監視に当たる欧州安保協力機構 (OSCE) が11月に政府軍と親露派の双方が10月に合意したドネツク州での兵力引き離しを完了した。
1・2・5・5 ウクライナの軍事力増強
 一方ウクライナも、沿岸防衛用陸上発射型 ASCM の開発やBliskavka 超音速ASMの開発など、防衛力増強に努めている。
1・3 紛争潜在地域の情勢

1・3・1 朝鮮半島

 「1・5・2 北朝鮮」及び「1・5・3 韓 国」で記述
1・3・2 東シナ海

1・3・2・1 中国の動き

 中国側が東シナ海で一方的ガス田等の開発やわが国の排他的経済水域海域で海洋調査を続けている。

 尖閣諸島周辺で中国は常時警備艦を派遣しており、米国防総省が発表した中国の軍事力に関する年次報告書でも警戒感を示している。
 尖閣諸島の接続水域に侵入した中国公船数が12月上旬までで1,007隻になり、過去最大であった2013年の819隻を18%以上上回っている。

 中国海軍の艦船や航空機の動きも活発で、空母遼寧を含む艦隊の沖縄本島と宮古島間海域通過も起きているほか、爆撃機、AEW&C機、ELINT機などの海峡通過も複数回生起している。

 更に5月には中国軍の戦闘機が海上自衛隊の護衛艦を標的に見立てて攻撃訓練をしていた疑いの強い。

1・3・2・2 わが国の対応

 中国の動きに対しては海上保安庁や自衛隊が対応しているが、沖縄県石垣市議会が7月に、尖閣諸島周辺海域の警戒監視体制強化と漁業支援施設の整備を求める意見書を賛成多数で可決している。
1・3・2・3 米国の動き

 米太平洋空軍が4月、B-52がグアムのAndersen AFBを飛び立ち東シナ海上空で航空自衛隊の戦闘機や米軍嘉手納基地所属のF-15と共同訓練を行った。
1・3・3 南シナ海

1・3・3・1 中国の動き

 米インド太平洋軍は南シナ海における行動規範を定めても中国はそれに従わないであろうと見てる。
 人工島の軍事拠点化と軍備増強と海南島の軍事拠点化を進めており、Woody島へJ-10を配備したことが確認されている。

 海南島の軍事拠点化も進められ、三亜・楡林海軍基地に中国で二番目の空母山東が入港すると共に、海軍基地の機能拡充が図られている。

 海洋調査活動の強行や大規模演習の実施など示威活動も活発で、1月には海上民兵と見られる300隻近い大規模漁船団の動員も行われている。
 またベトナムやフィリピン漁民の締め出しも継続しているほか、ベトナムによる天然資源採掘活動の妨害も行われている。

 更に中国は西側諸国への不干渉を要求しており、豪艦艦載ヘリへのレーザ照射などの嫌がらせや、米艦船に届く位置にDF-26 ASBMを移動させるなどの行動に出ている。

1・3・3・2 周辺国の動き

 中国による軍事拠点化が進む南シナ海情勢に危機感を持つASEANは共同声明で、中国を念頭に「複数の外相から懸念が示された」との文言を盛り込み表現をやや強めた。

 フィリピン、インドネシア、シンガポール、タイなどの南シナ海周辺諸国が徐々に防空監視能力を向上させている。

1・3・3・3 米国の対応

 米国は南シナ海で、ほぼ毎月1回のペースで航行の自由作戦を行い、主として駆逐艦を中国の建設した人工島の12nm以内を航行させている。
 また複数のB-52による南シナ海上空の飛行も行っている。

 更に米海軍は沿岸監視隊と共にこの海域で演習を行うと共に、ベトナムやフィリピンに艦船を寄港させ、これら諸国海軍等との合同演習も行っている。

1・3・3・4 欧州諸国の対応

 英海軍は米第7艦隊と1月に南シナ海で合同演習を行った。
1・3・4 欧 州

1・3・4・1 モルドバ

 2月に行われたウクライナとルーマニアの間に位置するモルドバの総選挙では、親欧米を掲げる与党民主党と対露関係強化を主張する社会党が争ったが、はどの政党も過半数に届かず、政治的不安定が続いている。

 モルドバの憲法裁判所は6月に親ロシア派のドドン大統領の職務を停止し、大統領代行に親欧米を掲げる民主党のフィリプ首相を任命したため、混乱と激しい与野党対立は今後も続きそうである。

1・3・4・2 コソボ

 コソボでは国会が2018年12月にEUやNATOの反対を押し切ってコソボ治安部隊 (KSF) を2週間後に正規軍とする法案を可決したが、重武装のコソボ警察部隊がセルビアが支配しているコソボ北部に入ったのを受け、セルビア軍が5月に全軍警戒態勢に入った。 コソボ北部ではセルビア人が人口の90%を占め、コソボ独立に反対しセルビアへの帰属を望んでいる。
1・3・4・3 キプロス

 東地中海の天然ガスをめぐりイスラエル、ギリシャとトルコの間で緊張が高まっている。
 EUは6月にギリシャとキプロスの強い求め、問題となっている領海で掘削作業を中止しなければ、何らかの措置を講じるとトルコに警告した。 また米国務省は7月にトルコに対し、キプロス沖でのガス掘削活動の中止を要請した。
1・3・5 コーカサス

1・3・5・1 ジョージア

 ジョージアの首都トビリシで6月に大規模な反露デモが起き、開かれた集会でNATOへの加盟などを訴えた。

 1月には米駆逐艦が寄港し、3月にはB-52が飛来した。

1・3・5・2 ナゴルノカラバフ

 2018年に再発したナゴルノカラバフを巡るアルメニアとアゼルバイジャンの武力衝突は2019年には生起していない。
1・3・6 北極海

1・3・6・1 北極圏諸国

 ロシアが北極圏にBastion-P超音速ASCMを揚陸展開させたほか、S-400 SAMの配備を完了したり、軍備を強化している。
 ロシアは5月に初の原子力砕氷艦を進水させ、更に10月には砕氷コルベット艦を進水させている。

 これに対し米国は、中露の北極海進出に危機感を持つも砕氷艦の不足が懸念されている。 こうしたなか米議会は漸く沿岸警備隊の砕氷艦建造予算を承認した。

 カナダ沿岸警備隊では3隻の砕氷船を警備艦に改修する計画で最初の1隻が12月に就役した。

1・3・6・2 中国の進出

 資源開発や北極海航路開拓に野心をのぞかせる中国は排水量33,000tの原子力砕氷船の建造計画を進めている。
1・3・7 黄 海

 黄海の離於島の領有権を巡って韓国と中国は争ってきたが武力衝突には至らず、2019年も特に報じられるような事態は生起していない。
1・3・8 アフリカ

1・3・8・1 地中海沿岸

 2013~2015年に米仏から戦闘機を導入してきたエジプトが、ロシアにSu-35 24機以上を発注した。
1・3・8・2 紅海沿岸

 米空軍が、2013年からReaperやPredatorなどのUAVを運用してきたジブチの飛行場で、現在設置されている整備用シェルタを半永久型のハンガー4棟に建て替える契約を行った。
1・3・8・3 中部アフリカ

 アフリカへの進出を強めている中国に対し、ケニアでは中国からの過剰な借り入れによってもたらされる債務のわなへの警戒が広がっている。
1・3・9 その他の紛争潜在地域

1・3・9・1 シンガポール対マレーシア

 シンガポールとマレーシアの運輸相が4月、両国が対立していた領空問題に関する共同声明を発表した。
 シンガポールはマレーシアが南部のインフラ開発の妨げになると主張していた新たな空港の発着手順を取り下げ、マレーシアも対抗措置として打ち出していた南部の飛行制限区域の設置を無期限停止するとしている。
1・3・9・2 サウジアラビア

 EU欧州委員会は、EUに脅威を与える国のリストの草案にテロ資金供与の監視の不十分さなどを理由にサウジアラビアを追加した。

 ドイツはサウジアラビア人記者殺害事件を受け2018年11月にサウジへの武器売却を凍結しているが、独外相は3月にサウジアラビアに対する武器禁輸措置を3月末まで継続すると述べた。

1・4 周辺国を除く各国

1・4・1 米 国

1・4・1・1 トランプ政権の国防政策

 トランプ政権が核戦略政策を変更したのに伴い、米軍が6月に限定的な核兵器使用を想定した新指針をまとめた。

 トランプ政権は2月にロシアによる違反を理由に中距離核戦力 (INF) 全廃条約を破棄すると正式に発表し、8月に正式に脱退した。
 これに伴い地上発射中距離ミサイルの開発とアジア太平洋地域への配備の検討を進めている。

 一方2021年に期限切れを迎える新 STARTについて、ポンペオ米国務長官が延長の可能性に言及した。

 中露に対する脅威認識については1月に"China Military Power 2019"、6月に"Indo-Pacific Strategy Report"を公表した。

 米中経済戦争は知的財産の保護を問題視した制裁関税問題では何らの進展がなく、 華為技術(ファーウェイ)の排除でも進展がない。  一方米議会は中国に対し人権・民主主義法で攻勢を展開しており、11月に香港人権・民主主義法、12月にウイグル人権・民主主義法を相次いで可決している。

 戦略資源政策では米国の原油生産量が世界最大になり、はほぼ全面的にアジアに依存しているレアアース磁石の備蓄を計画している。

 トランプ政権は3月に、国防総省固有費$718Mを含む$750BのFY20国防予算案を議会に提出した。 予算は12月に総額$738BのFY20国防権限法 (NDAA) として成立した。
 トランプ米大統領が2月に署名した宇宙軍創設がFY20 NDAA成立で実現した。

1・4・1・2 各軍の戦略戦術

 海軍第2艦隊が5月にIOCとなり、2019年末にFOCになった。

 海軍が目標とする355隻体制に対し、現在の予算状況では305~310隻を維持できる状況になっていると述べた。

 陸軍ではAssault Breakerを再行したAssault Breaker Ⅱ計画を始めるなど、主作戦正面の変更を伺わせる動きがある。 陸軍Future Commandは、まずロシアや中国との大規模な戦闘に再び焦点を当てている。

 太平洋陸軍司令官がレーダ列島弧を構築する必要性が述べと共に、陸軍は米本土に強力な防空組織を構築する検討を開始している。

 陸軍は500名規模からなる初のマルチドメイン戦闘隊 (MDTF) を更に最小限2個新設する計画である。 新設される1個隊は欧州に、もう1個隊は太平洋地域に配置される。

 陸軍は3年かけて戦略長距離砲の開発を行うる。 開発は砲、自動装填機、砲弾及び、何か不釣り合いであるがMANPADの4分野で行われる。

1・4・1・3 インド太平洋軍

 エスパー米国防長官が8月、中国の進出に対抗するため太平洋地域に基地を拡大する必要性を強調した。
 候補地にはかつてからの同盟国シンガポールやフィリピンのほか、タイのU-Yapao海軍航空基地や国交正常化25周年を迎えるベトナム、更にマレーシアやインドネシアも考えられるという。
 更に南方のミクロネシア連邦や北マリアナ諸島の可能性もあり、ヤップ島やパラオ島も考えられるという。

 インド太平洋軍司令官は2月にインド太平洋地域での火力の増強を求めた。 革新的技術を持つ重魚雷のほか、陸軍や海兵隊がATACMS、NSM、HIMARSなどの装備を求めた。

 インド太平洋軍は沿岸監視隊警備艦の作戦海域での哨戒を開始するほか、複数の新型高速警備艇をグアムに配備した。

1・4・1・4 在韓米軍

 12月下旬に成立したFY20国防権限法には、在韓米軍の削減を制限する条項が盛り込まれた。
1・4・1・5 在日米軍

 沖縄駐留海兵隊4,100名のグアム移駐開始は早くて2024年10月で、移駐完了には18ヶ月を要するという。 残りの900名も沖縄以外のどこかに移駐するという。

 米空軍横田基地に作戦計画の策定や実行を担う新たな指揮所航空宇宙作戦センター (AOC) の設置が検討されている。 AOCには第5空軍に作戦統制権が与えられた際に司令官の決断を補佐するもので、実現すれば自衛隊との連携もより密接になる。

 米陸軍が2019年後半に沖縄周辺でHIMARSとATACMSの実射を行うと自衛隊に通報してきた。 また米海兵隊のHIMRSを陸軍の揚陸艇に積載する訓練が10月に沖縄県金武町で行われた。

 佐世保を母港としている第76機動部隊 (Task Force 76) の旗艦である強襲揚陸艦Waspを強襲揚陸艦America交代させた。

1・4・2 ロシア

1・4・2・1 拡張政策

 プーチン政権が、ベラルーシへの石油供給価格を引き上げるなど圧力をかけ、ロシアとの国家統合を迫っている。

 ロシアのINF全廃条約違反が疑われている。 NATOは1月のNATOロシア協議会 (NRC) で、9M729 GLCMの射程は480kmでINF全廃条約に違反しないというロシアの釈明を受け入れなかった。
 米政権がロシアに条約順守の意思がないと判断したのは、地上発射型の巡航CM 9M729を装備する部隊を増強していることが判明したためで、ロシアは2018年12月は3個大隊だった9M729を装備するする部隊を4個大隊に増強していた。

 ショイグ国防相は3月に、2012~2018年に軍近代化のため作戦機1,000機以上、戦車3,700両、ICBM 109基、SLBM 108基、Iskander 10個旅団を装備したと実績を誇示した。

 ロシアが東地中海で兵力増強を図っている。 多くの艦船が黒海から地中海東部に向かうと共に、複数のSu-25がシリアのHumaymim航空基地に駐機しているのが確認された。

 中央アジアを舞台にしたCentre 2019演習がロシア、中国、パキスタン、インドを含む7ヵ国から128,000名以上と航空機600機、火砲450門が、またカスピ海小艦隊から艦艇15隻が参加して開かれ、この地域への影響力を拡大させた。 前回のCentre 2015はカザフスタンが参加し95,000名と170機だけの参加であった。
 また10月には定例の戦略兵器演習Grom 2019を露各地で開始した。 演習期間中にはYars ICBMやSineva SLBMなど計16基の発射も行われた。

1・4・2・2 財政難下の軍事費

 2017年に落ち込んだロシアの軍事予算は2018年にもRUB2.8T ($42B) 落ち込み対GDP比が2.8%になった。 2019年におけるロシア軍の装備調達費がRUB1.44T ($21.6B) にのぼるが2018年度のRUB1.5Tに比べて4%削減されている。

 こうしたなかロシアは武器輸出の推進を進めており、2019年の武器輸出額が2018年度を$2B上回る$13Bに達した。 また海外からの受注残高が$50Bに達しているという。

1・4・2・3 軍近代化の計画と実績

 ロシア軍が装備する近代化された兵器の割合が61.5%に達した。
 この中にはYars ICBM 109基、SLBM 108基も含まれるほか、SSBN 3隻、その他潜水艦7隻、宇宙船57基、Bastion/Bal 17個システム、MBT/IFV 3,712両、固定翼/回転翼機1,000機以上、艦船161隻が含まれる。
1・4・2・4 戦略兵器の増強

 プーチン露大統領が2月始めに潜航試験を完了したと発表したPoseidon UUVの社内試験が2019年夏に開始される。
 2015年末に初めて公表されたPoseidonは高速、深深度性能を持ち2Mtの核弾頭を発射できる大陸間航続能力を持つ大径魚雷と見られ、全長は24mで速力107ktで自律航行し、核弾頭を破裂させて敵の沿岸に津波を巻き起こすという。
1・4・2・5 通常戦力の強化

 ショイグ国防相が3月、露海軍が2018~2027年に180隻の艦艇を装備するとした上で、2019年中に15隻の戦闘艦艇と20隻の補給艦を取得すると述べた。

 建造中のProject 20385コルベット艦Gremyashchiyは94.5%完成しており、12月に海軍へ引き渡されて方艦隊海域で試験が行われる。
 全長排水量2,200t、速力27ktのProject 20385はKalibrシリーズ3M-14対地、3M-54対艦、91R対潜ミサイルを発射する。

 Su-57の1号機が2019年内に に納入され、2号機も2020年始めに納入される。 また2019年にSu-35を10機取得しており、残りの10機も2020年内に納入される。

 地上軍ではウクライナ国境近くに3個師団規模部隊を新偏され、ロケット砲兵部隊が2019年にIskander-M 1個旅団分が西部軍管区に配備されIskander-Mへの換装を完了する。
 地上軍は2013~2018年に10個旅団分のIskander-M 458基を受領しており、生産しているKBM社は毎年2個旅団分のIskander-Mを納入している。

 ロシアは戦場でUAVの使用実績を伸ばし、シリアでは介入以来70機程度のUAVが23,000ソティー、14万飛行時間と実績を伸ばしている。

1・4・2・6 対米挑発活動

 Tu-95やTu-160などのロシアの爆撃機がアラスカ周辺で数度にわたり米国やカナダへの接近飛行を行っている。 この際にSu-35が同行したこともある。
 6月にはフィリピン海で、米海軍巡洋艦とロシア海軍駆逐艦が危うく衝突する事件があった。

 また6月に地中海の公海上空を飛行していた米海軍のP-8A Poseidonがロシア軍機に進路を妨害される事件があった。

1・4・2・7 対欧州戦略

 8月にロシア海軍がバルト海で一連の演習の第二弾となるOcean Shield 2019演習を開始した。 この演習にはバルチック艦隊と北方艦隊及びカスピ海小艦隊から、戦闘艦49隻、支援艦船20隻、航空機58機が参加した。
 ドイツ海軍副司令官は9月に、ロシアがバルト海での挑発を強めておりNATO及び加盟国は共同防衛体制を強化する必要があると述べた。

 ロシアは欧州向けにNord Stream 2、Druzhba、Turk Streamなどの天然ガスパイプラインを建設し、欧州に対するエネルギー戦略を進めている。
 これに対してポンペオ米国務長官は2月、安全保障上の大きなリスクがあるとして建設に反対する考えを強調し、計画に参画する企業への経済制裁も辞さない構えを見せた。

 そのほかにロシアは潜水艦の活動活発化し、2017年と2018年にノルウェー軍に対する模擬攻撃を仕掛けるなど北欧諸国に対する挑発を繰り返し、カリーニングラード確保のための防空網強化などを行っている。

1・4・2・8 北海、バレンツ海での謎の事故

 バレンツ海のロシア領海内で7月に、ロシアの原子力潜水艇の火災が発生した事故で乗員14名が死亡した。
 この事故について露メディアは、同艇は海底通信ケーブルからの通信傍受など、極秘任務に従事していた可能性があるとの見方を報じた。
1・4・1・9 極東地域での活動

 ロシア極東地域ではBastion-Pのカムチャッカ半島配備やBalの増強など、沿岸防備用対艦ミサイルの増強が進められている。
 またわが国の北方領土では国後と択捉に UAV を配備しているほか、千島列島2島へBastionの配備も行われている。

 一方東部軍管区が10月に極東地域で敵対勢力の上陸を想定した大規模演習を開始した。 この演習は、北方領土を事実上管轄するサハリン州と沿海地方の訓練場で実施され、8,000名の将兵のほか3,000両の戦車・自走砲などと50機の航空機が投入されるという。
 北方領土ではこの他に、3月に上陸作戦対処訓練、4月には周辺海域で射撃訓練、8月にも射撃訓練が行われている。

 これとは別に6月には南大東島沖合と八丈島沖合でTu-95による領空侵犯があった。

1・4・3 欧州 (NATO/EU)

1・4・3・1 NATO

 トランプ大統領は政府高官らにNATOからの離脱が可能か何度も問い合わせたが周辺が離脱しないよう説得にあたったという。 このような大統領のNATOへの認識から、FY20国防費で米国の欧州同盟国支援経費が10%近く削減されている。

 NATO軍最高司令官はロシアに比べて陸海の装備が不足していることに不安を感じると述べている。

 NATO事務総長は中国に対しの危機感を明らかにした。
 12月に開かれたNATO首脳会議は初めて中国問題を本格的に扱い、軍事力を拡大する中国やロシアへの対応などについて協議し、ロンドン宣言を発表して閉幕した。

 11月に開かれたNATO外相理事会では、宇宙を陸、海、空、サイバ空間と並ぶ作戦領域に認定した。

 NATO加盟29ヵ国のうち、国防費支出をGDP比で2%以上に増やす目標を2018年に達成したのは7ヵ国にとどまった。 ペンス米副大統領はドイツの少なすぎる軍事費を断じて容認できないと強く批判した。
 2019年のドイツの国防費は対GDP比で1.35%とNATOが目標としている2%にはほど遠いが、11月に米国以外の全ての加盟国が合意した新たな各国の負担率算定式によると米国の経費負担は22%から16%に低下し、ドイツの負担は15%から16%に増えることになる。  NATOは5月に"Formidable Shield 2019" BMD 演習、5月にバルカン半島有事を想定した"Immediate Response"演習、10月に北欧を舞台にした"Trident Juncture 2018"演習を実施し、2020年4月と5月に冷戦後最大規模の"Defender Europe-20"演習を計画している。

 NATOはロシアからの天然ガスパイブラインNord Stream 2計画を巡り推進する国と反対する国が対立しているほか、マクロン仏大統領が加盟するトルコによるシリア侵攻を巡り加盟国の行動を規制していないことなどから脳死状態にあると指摘するなど、内部の対立が顕在化している。

 北マケドニアのNATO加盟が一方で、アイスランドがNATOからの脱退をほのめかしている。

1・4・3・2 在欧米軍

 現在ドイツに30,000名以上の米軍が駐留している。 3月にはポーランドに第1機甲師団から1,500名以上が無通告展開をした。

 米空軍のB-52が3月に太平洋と欧州で実戦を想定した訓練飛行を実施した。 このうち欧州には6機のB-52が派遣され、その内の4機がノルウェー海、バルト海、エストニア、地中海、ギリシャの上空を飛行した。

 米陸軍と仏陸軍の将官級人事交流として、米陸軍准将が仏陸軍第3機甲師団の副師団長として4月に就任し、仏陸軍からは准将が米陸軍第3歩兵師団の副師団長に就く。

1・4・3・3 E U

 3月に行われたEU首脳会議で中国への新たな戦略を協議し、貿易の不均衡是正などに向けた対応を進めることで一致した。 ユンケル欧州委員長は、中国はパートナと同時にライバルと述べている。

 2017年にEUが締結したPESCOでは第一段階として17項目、2018年からの第二段階にも17項目が計画されているが、2019年末に最終の第三段階に新たに13件を追加することになった。

 メルケル独首相とマクロン仏大統領が1月に締結した欧州統合を一層推進するアーヘン条約は、多岐にわたる包括的な独仏協力をうたったものだが、最も重要なのが防衛、安全保障で、とりわけ両国の領土に対する侵略が行われた場合、兵力を含むあらゆる手段で支援することを約束している。
 この約束は、集団的自衛権を定めたNATO条約第5条を越えるものとされている。

 欧州防衛庁 (EDA) 加盟27ヵ国中22ヵ国が5月に欧州域内での国境を越えた部隊の移動を円滑化するための協定を2020年まで作成することに合意した。 この合意に参加していないのは幕僚の派遣のみに留めているドイツや中立政策または政治的背景から参加していないアイルランドと英国など5ヵ国である。

1・4・3・4 英 国

 EUからの離脱 (Brexit) を目指す英国は、アジアで新たな軍事基地構築の検討や空母Queen Elizabethの太平洋派遣などアジアへの再進出の動きを見せているが、フランスがこれを牽制して原子力空母Charles de Gaulleと駆逐艦や潜水艦などなどからなる艦隊をが3にインド太平洋に展開すると発表した。

 英空軍の陸上防空部隊 (GBAD) が第7防空群 (7ADGp) と改称され、陸軍FTCの隷下に入った。

1・4・3・5 トルコ

 トルコではエルドアン政権の反米、反西欧、親露姿勢が目立っている。
 米国やNATOの強い反対にもかかわらずロシアからS-400を導入したエルドアン政権は、米国がその報復としてF-35の引き渡し停止を行うとロシアからSu-35やSu-57の導入をちらつかせ、更にS-500の共同開発にも言及している。

 またトルコは暫く平静であったキプロス問題も再燃させ、周辺海域の炭化水素資源探査の実施などでギリシャ及びEUと対立している。
 このことからギリシャとの緊張が高まり、両国戦闘機が格闘戦もどきの状況をも呈した。

 NATO諸国はイタリアがトルコに展開していたPAC-3部隊を撤収し、英国がトルコへの武器輸出許可の全面的な見直しを行っている。
 また米国はトルコに配備していた核兵器の国外への移動を検討している。
 更に、米上院がオスマン帝国によるアルメニア人殺害事件を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定する決議を行っている。

 これに対してトルコは2019年の国防安全保障費を15.9%増、その内の国防費を16%増とし、武器輸出の拡大や第五世代戦闘機TF-X開発計画の推進や、UAV、ミサイル、各種電子兵器の開発生産に力を入れ、リビア派兵など積極的な軍事的拡張政策を進めている。

1・4・3・6 ノルディック諸国

 ノルディック諸国ではロシアがますます攻撃的になっていることから、非同盟政策を取るフィンランドとスウェーデンが米国やNATOへの傾斜を強めている。

 フィンランドは米国からEA-18G Growlerを導入するほか、次期戦闘機も西側機種で選定作業を進めている。
 スウェーデンは新たなPatriot保有国になり、GEM-T弾とPAC-3 MSE弾を導入する。

 スウェーデンは更に現在の60,000名の戦時戦力を90,000名に増強し、徴兵数も年間4,000名から8,000名に引き上げるとしている。

 NATO加盟国であるノルウェーには冷戦期も米軍が駐留していなかったが、現在では米海兵隊1個大隊が巡回駐留しており、1個海兵遠征旅団並の大規模な武器等の備蓄を行っている。

1・4・3・7 バルト海及び東岸諸国

 エストニアが5月に米国との防衛協力協定に署名した。 この協定はリトアニアとは4月、ラトビアとは5月に結ばれている。

 リトアニアとポーランドの国防相が2月に共同行動に関する合意書に署名した。 合意書ではリトアニア軍のIron Wolf旅団とポーランド軍Giżycka機械化旅団が、ポーランドElblagに駐屯するNATOの北東多国籍師団 (MNDNE) 司令部と共にNATOeFPを構成する。

 ポーランドの強い要求により5,500名の米軍が同国への常駐を開始した。

 ポーランドは軍近代化15ヵ年計画を策定して軍備増強を行っており、それに基づき欧州ではポーランド、ルーマニア、スウェーデンが新たなPatriot保有国になった。
 Patriot導入に合わせて、米陸軍ですらまだ装備していないIBCSを装備する。
 またF-35A 32機を購入しソ連時代の戦闘機に取って代えることにした。

 リトアニアではAbrams MBT 30両、Bradley IFV 25両及び装輪車両70両と500名以上からなる米陸軍部隊が入る。 これは先般演習のため同国に入った数個大隊と異なり、長期に駐留するという。

 エストニア海岸では6月に、米海兵隊とスペイン海兵隊がBALTOPS年次演習で上陸演習を行った。

1・4・3・8 黒海及び沿岸諸国

 NATOや米艦の黒海入りは2018年にケルチ海峡でウクライナ艇が拿捕された事件以来増加し、2018年には2017年の80日間から120日間に増加しているが、2019年は4月時点で2018年と同じ日数に達している。

 2008年に南オセチア州とアブハジア州を実質的にロシアに取られたジョージアが米国の力を借りて軍の強化を行っている。 2月には米陸軍第1歩兵師団の1個軽歩兵大隊が同国軍の訓練を開始している。

 NATOが設立後4年経過して旧式となったNATO-ジョージア訓練評価センタをあらたな指揮幕僚訓練センタとして2021年に開設する。 但し17年近いジョージアの努力にかかわらず同国のNATO加盟は一部加盟国の反対で実現していない。

 ルーマニアへは米空軍がロシアの脅威に対抗するためF-16C 12機を短期派遣しているが、ルーマニアもポルトガルからF-16A/B 5機を追加購入し保有するF-16AM/BM 12機に加える。

1・4・3・9 その他の欧州

 マケドニア議会が1月に国名を「北マケドニア共和国」に変更する憲法改正案を承認した。 国名論争を抱えマケドニアのNATO加盟に反対していたギリシャとの合意に基づくもので、NATOやEUへの加盟へ向け大きく前進した。
1・4・5 南アジア

1・4・4・1 インド

 インド国防相が8月に核不先制使用の原則を変えることを示唆した。

 インドがロシアからS-400 5個システムを購入することから、15年間続いてきた米国とインドの蜜月関係が崩れ始めているが、一方で米軍事企業各社はインドの次期中等戦闘機AMCAの受注を狙っている。 AMCAは空軍用として110機、海軍の艦載型が57機が計画されている。
 また米国とインドがSwarm Droneの開発を共同で進めることに合意した。

 米印軍初の合同演習"Tiger Triumph"が11月中旬に開始され、米第3海兵師団が揚陸艦Germantownで参加しインド側からは三軍が参加する。
 演習は人道支援や災害救助をテーマに行われるが、水陸両用戦の演習も行われる。 米軍は今回太平洋海兵隊を中心に参加するが、将来は陸軍や空軍に参加を広げてゆくという。

 インド陸軍が、サイバ戦能力を向上させDEWやAI応用兵器を導入した部隊Integrated Battle Group (IBG) の創設や海軍の大幅増強、陸軍の再編、国境地帯の増強などと軍の近代化、増強を進めている。
 但しロシアへの武器依存度は依然として高い。

 インドが3月、自国の衛星をASATミサイルで破壊する試験に成功した。
 この他に4月には29個の人工衛星を打ち上げ軌道にのせることに成功し、5月にはレーダ地球観測衛星を高度556kmの太陽同期極軌道に載せることに成功した。

 インド空軍が5月にALCM型BrahMos超音速CMであるBrahMos-AをSu-MKIからの地上目標に対し発射する試験に成功した。 また12月には水上目標を標的にした試験に成功した。
 BrahMos社は4月に、現在400kmであるBrahMosの射程を500kmまで延伸すると共に、最高速度も現在のMach 2.8からMach 4.5に引き上げると発表した。

 インドが建造中の1隻目の国産空母 (IAC-1)は2020年代初期の就役予定で、2隻目の国産空母IAC-2は2030年代初期に就役する計画である。
 英国防省が4月に、インドとの防衛協力協定を更新したと発表した。 これにより英国は艦船技術での交流に道が開けた。
 印海軍は国産空母二番艦 (IAC-2) にQueen Elizabeth級を検討している可能性がある。

 インドが3月にロシアと攻撃型原潜1隻を10年間リースする契約を行った。 この原潜はインド海軍がロシアからリースする3隻目の原潜で、インド海軍で2025年に就役する。
 インド海軍は現在、2012年に10年間の契約を行ったChakraを装備しており、このリース契約は更に3年間延長されると見られる。
 インド国防省は1月に潜水艦6隻をOEMで国内建造することを承認した。 この潜水艦はAIP併用のディーゼル/電気推進で対地攻撃能力を持つ。

 インド海軍がフラビア海で5月にBarak-8のMRSAM型初の発射試験を実施した。

 インド空軍が2月、中古のMig-29 21機をを追加発注した。 これによりインドが保有するMiG-29は60機を超えることになる。
 インド空軍はライセンス生産した222機を含め250機のSu-30MKIを保有しているが、更に18機を追加調達する模様である。
 また10月には、保有しているSu-30MKIのレーダ、搭載電子機器、搭載武器の改良を行うと発表した。 この改良によりインドDRDOが開発した射程100km以上のAstra BVRAAMやBrahMos-Aの搭載が可能になる。

1・4・4・2 インド洋諸国

 一帯一路を進める中国の動きをにらみつつ、日本が唱える自由で開かれたインド太平洋構想を後押しするため、日本政府がインド、スリランカとコロンボ港を共同開発する方針で3ヵ国で覚書を交わし令和元年度中にも着工する。

 米政府がスリランカ海軍に供与したHamilton級警備艦が5月にコロンボに入港した。
 一方スリランカ海軍が中国から購入した退役したType 053H2Gフリゲート艦が8月に就役した。

 任期満了に伴い11月に実施されたスリランカ大統領選で、親中姿勢をあらわにしたラジャパクサ前大統領の実弟ゴタバヤ・ラジャパクサ元国防次官が勝利した。

 モルディブで任期満了に伴い4月に行われた議会選挙で、ソリ大統領与党のモルディブ民主党がヤミーン前大統領の野党モルディブ進歩党を大きく引き離して単独で過半数を確保した。
 2018年の大統領選挙では、インドとの関係を重視するソリ大統領が、ヤミーン大統領の外交政策を中国一辺倒だと批判して当選し政権が交代している。

 セーシェルでは、インドとの間で一旦合意した海軍基地の共同建設を断念した。 セーシェルの議会は与党が少数派で、多数派の野党が外国との共同建設に反対したためである。

1・4・4・3 ネパール、ブータン

 特筆すべき報道はなかった。
1・4・4・4 バングラディッシュ

 特筆すべき報道はなかった。
1・4・4・5 パキスタン

 Shaheen 2、Zarb ASCM、Shaheen-1などミサイルの発射しけんが行われた。
1・4・5 中南米

1・4・5・1 ベネズエラ

 1月に大統領就任式を強行したベネズエラのマドゥーロ氏に対し、同氏の再選は無効とする風潮が国内外で広がっており、同国国民議会のグアイド議長が、自分が同国の大統領代行であると宣言し、米国やブラジルなどが次々にそれを承認し、二人の大統領が誕生した。
 暫定大統領就任を宣言したグアイド国会議長は、故チャベス前大統領が推し進めた資源ナショナリズムを撤回し、油田開発など事業で民間企業の役割を拡大する法案を作成した。
 またベネズエラの国会は米州相互援助条約参加を承認した。

 グアイド国会議長の支持を表明した米国はマドゥロ大統領側に対する経済制裁などを行ったが武力介入は行わず、軍の離反も一部な留まったためそのままの状態が続いている。

1・4・5・2 ニカラグア

 特筆すべき報道はなかった。
1・4・5・3 ボリビア

 モラレス大統領は4選を禁じる憲法の規定を事実上無視して10月の大統領選に出馬する意向を示しており、ベネズエラのような独裁化を懸念する声が広がった。
 結局モラレス大統領は11月に大統領を退きメキシコに亡命した。
1・4・5・4 エルサルバドル

 エルサルバドルで2月に任期満了に伴う大統領選が実施され、議会第三党の中道右派GANAから汚職撲滅を掲げて出馬したブケレ前サンサルバドル市長が勝利した。
 1992年の内戦終結以降、エルサルバドルでは左派FMLNと中道右派ARENAの二大政党が国政を担ってきており、二大政党に属さない大統領が30年ぶりに誕生した。
 ブケレ次期大統領は中国との外交関係を今後も維持していくべきかについて調査を行うとの方針を示した。 2018年8月に前政権がドミニカ共和国とパナマに続いて台湾と断交してから1年足らずしか経ていないが、ブケレ氏は選挙戦中、中国との外交関係を結んでからエルサルバドルが受けた恩恵に否定的な見方を示していた。
1・4・5・5 エクアドル

 2017年に就任したエクアドルのモレノ大統領はコレア前大統領が進めた反米左派路線からの転換を進めており、IMFとの連携で低迷する経済を立て直そうとしている。
 反米左派のコレア政権は石油販売で得られた収入を国民へのばらまきにあてていた。
1・4・5・6 ブラジル

 ブラジルで1月に就任したボルソナロ新大統領は親米路線を推進しており、米国との軍事や通商面での協力拡大を進めており、ブラジルのNATO協力国入りを求めていたが、フランスは3月に欧州に属さないブラジルは対象にならないとして否定的な見解を示した。

 ブラジルで3月に原子力発電に使用するウランを輸送中の車列が武装した賊の襲撃を受け、車列の警護に当たっていた警察との間で銃撃戦となり、その後、賊は何も奪わずに退散し、ウラン輸送の車列は輸送を再開した。

1・4・6 中央アジア

 特筆すべき報道はなかった。
1・5 東アジア諸国

1・5・1 中  国

1・5・1・1 世界制覇の国家目標実現
 対インド拠点としてネパールの確保に力を入れ、ネパールと中国を結ぶ鉄道の建設に拠出する方針を表明したほか、ネパールへの軍事援助も開始した。

 中国が推し進めてきた高利貸し外交による海外利権の獲得は、パキスタンなども疑問を呈しだして、余り拡大していない。
 ただ米国防総省が5月に議会に提出した年次報告書では、中国が大経済圏構想「一帯一路」への投資を保護するため、世界各地に新たな軍事拠点を建設していくとの見通しを示している。

 中国は中露軍事協力協定締結に向け協議開始すると共に、中露爆撃機による日本海上空での飛行訓練を実施するなど中露の軍事協力を進めている。
 またASEAN諸国に対してもタイ海軍との合同演習の実施やシンガポールと軍事協力強化協定の締結などと共に、カンボジア海軍基地を独占使用しているほかフィリピンでスービックと旧Cklark空軍基地を手に入れようとするなど、海外軍事拠点確保の努力を進めている。
 更にアフリカ諸国の取り込みにも力を入れ、中国アフリカ平和安全フォーラムを主導している。 更に欧州に対しても独仏への軍事協力を働きかけ、イタリアと一路一帯の協力に関する覚書に署名し、抱き込みに成功している。

 海外軍事拠点の構築では、1992年まで米海軍の太平洋地域最大軍港であったSubicに中国の2社が進出しようとしている。

 中国軍が太平洋などの遠洋での作戦能力を急速に拡大している。
 特に潜水艦隊の増強と海兵部隊の増強が目立っている。 更に海警局、世界最大の沿岸警備組織になっていることが注目される。

 中国が進めてきた全地球規模測位衛星システムの構築が完成間近になっている。

1・5・1・2 台湾制圧に向けた準備
 米国防総省は、中国が台湾侵攻を海空による封鎖から全面武力侵攻までにわたり検討していると分析している。
 一方で7月に公表された中国の国防白書では、台湾分離の動きに強い警戒感を示している。

 中国軍のJ-11 2機が3月に台湾本島の西南部の空域で台湾海峡の中間線を越えて台湾本島側の空域に侵入した。 台湾海峡の中間線は中台間の事実上の停戦ラインで、中国軍機がこれを越えるのは極めて異例である。

 ただ艦船や航空機による台湾周回はしばしば行われており、6月には空母遼寧など複数隻の中国艦が沖縄宮古島間を通過後、グアム島周辺やフィリピン南部の海域を経由して南シナ海に入り、その後台湾海峡に入って東シナ海へと抜けた。

 4月には中国軍の偵察機や爆撃機など複数機がバシー海峡を抜けて西太平洋の海域で訓練を実施し、このうち爆撃機は沖縄本島と宮古島の間の上空を通過して中国側に戻った。 また4月に中国空軍の爆撃機が台湾を周回飛行した際、台湾本島南部と南東部を爆撃する訓練を行っていたという。

 7月には中国が軍事活動を行うため台湾に近い2ヵ所の海域を相次いで航行禁止区域に指定した。 安全保障面で米国との連携を強める台湾の蔡政権をけん制する狙いがあるとみられる。

1・5・1・3 米中対立の激化
 米トランプ政権が5月に知的財産権保護を名目とした経済制裁発表した。 米国は安全保障を名目とした中国企業ファーウェーの排除も行っており、安全保障も絡んだ米中経済戦争か行われている。
 これに伴い米国では中国からの留学生を制限しようする動きも起きている。

 これに対して中国の対米威力誇示或いは威嚇も活発化しており、空母遼寧がグアム周辺へ初航行したり、南シナ海で大規模対艦ミサイル発射演習を行ったりした。
 このような中でも西欧から軍事物資輸入は続けられており、英国が2018年に認証した軍事物資の中国への輸出総額が$9.6M にのぼっていた

1・5・1・4 わが国に対する挑発
 日本の領海や排他的経済水域 (EEZ) で中国などが無断で強行する海洋調査が後を絶たない。
 日本側の対応は監視・警告と外交ルートを通じた抗議に止まり、実態の解明も遅れているため次第に次第に大胆になり、海洋権益への脅威が増大している。

 中国の日本海進出も近年顕著で、中国北方艦隊の強化や艦船の対馬海峡の通過、更には航空機の進出も見られる。
 また南方海上での挑発活動もあり、沖ノ鳥島沖で無許可海洋調査も行われている。

1・5・1・5 経済不振下の国防費増大
 韓国が作成配布した資料によると、過去10年間の国防費支出増加率は中国が110%、インドが45%、ロシアが36%であった。

 中国政府が3月全人代で明らかにした2019年のGDP成長率目標は6~6.5%に設定したのに対し、国防費は前年比7.5%増を計上している。

1・5・1・6 香港騒動
 香港で3月に逃亡犯条例改正を機に民主化デモが発生し、現在もまだ継続している。

 その最中の11月に行われた区議会選挙は民主派が452議席中、85%に相当する388議席を獲得して歴史的な勝利を収めた。 改選前に議席の約7割を占めていた親中派は大敗した。

1・5・1・7 戦力の増強
宇宙戦

 米国防情報庁が2月の報告書で、中国が低軌道衛星のセンサを破壊する地上設置型レーザ兵器を2019年内に配備するするとの見通しを示した。

 中国が7月26日に遥感-30 SIGINT衛星3基を打ち上げたことで、遥感-30は15基が軌道上にあることになった。

B M D

 中国はロシアの支援でミサイル警報システムを構築している。

戦略ミサイル

 中国は10月の建国70周年閲兵式に射程12,000km以上とされるICBM DF-41を登場させた。 DF-41 ICBMは移動式のため第1撃に対し非脆弱である。
 DF-41は10回の発射試験をしていずれも成功しており、閲兵式でTELが16両登場した。 同じ閲兵式で展示した新型DF-31AG ICBMもTELに搭載されていた。

 衛星が1月に撮影した画像に、DF-26 IRBMのTEL 12両が写っていた。 中国国営メディアが1月に、航行中の空母を攻撃できるDF-26の高い運動性を誇示した。

 建国70年閲兵式で、中国軍が開発を進めていた新型の極高速兵器DF-17が初公開された。 DF-17はDF-16 IRBMの発展型とみられる。

 建国70年閲兵式では胴体下部にはALBM吊り下げ用とみられる改造がなされH-6Nが公開された。 中国の隔月誌がALBMを搭載したH-6最新型H-6NのCG画像を掲載した。

 中国海軍が2018年11月に初めての発射試験を渤海湾で行ったJL-3 SLBMはDF-41を元に開発中で、2020年代末に就役するType 096次世代SSBNが装備することになる。

 建国70年閲兵式で展示した超音速CM DF-100にはCF-100の名称もある。

艦 船

 中国では艦船の大量建造が進められている。 5月に進水してたType 056 1,500tコルベット艦は同級で60番艦になる。
 Type 071 LPDの8番艦の建造が本格化している。 8番艦と同じドックで建造された7番艦は、6ヶ月もかけずに建造され2018年に進水している。

 山東と命名された中国初の国産空母が12月に海南島の三亜軍港で就役した。 搭載艦載機数は遼寧の24機に対し、少なくとも36機に増えている。
 中国は原子力空母4隻を含む空母6隻態勢が目標と報じられていたが、初の原子力空母となる5隻目の空母建造が技術的な困難に直面し中断していると報じられた。
 通常動力の4隻目は2021年にも着工する見通しだが、追加の空母建造計画はないという。

 中国メディアが8月、Type 093A攻撃型原潜がそれまでの中国の原潜に比べて騒音を大きく低下させたとする記事を掲載した。
 射程7,500kmのJL-2 SLBM 12発を搭載するType 094(晋級)SSBNは4隻が海南島の三亜市近くに配置されている。
 9月に撮影された衛星画像から、中国海軍の無セイル潜水艦が2018年に進水した模様である。 この潜水艦は衛星画像から排水量500tと見られる。

 5月にType 052D駆逐艦2隻が進水した。 この2隻は19番艦と20番艦になる。
 排水量10,000tで112セルのVLSを装備するType 055駆逐艦の5番艦が進水し艤装工事中である。

 6月にType 071 LPDの8番艦が進水した。
 9月には中国初の強襲揚陸艦Type 075が進水した。 Type 075は満載排水量40,000tで、ヘリコプター30機の搭載が可能である。

 満載排水量45,000tのType 901高速洋上補給艦の2番艦が2018年に完成し就役した。

 中国ではL30 3.75t USV、ZB Intelligence社のSnakehead及びHunting Shark、CSIC社のJARIなど各種USV及び、Marine Hound UUVなど、無人艇の開発が盛んに行われている。

戦闘機

 中国空軍の第四世代戦闘機の数がすでに1,200機を超えて米空軍に次ぐ世界第2位になった。 中国共産党系メディアが、2035年までに第六世代戦闘機を導入するという見方を報じた。
 ロシアが3月に中国へのSu-35 24機の納入を完了した。 更に中国メディアが3月、ロシアのSu-57に輸出の許可がおりていると報じた。
 国産戦闘機ではJ-20の部隊配備が開始され、新型エンジンJ-20や復座型J-20なども報じられている。
 一方J-31/FC-31は中国軍が購入の意向を示さず、輸出の目処も立っていない。 中国メディアによるとJ-31/FC-31の戦闘行動半径はこれまで報じられた1,200kmではなく500kmが正しいようである。
 中国軍がJ-16戦闘機の大量配備を進めていると報じられた。 J-16は対地攻撃などもこなす多用途戦闘機でJ-20を補完する運用が考えられるという。
 J-20の生産が開始されてもJ-11Dの生産も継続しており、むしろ拡大しているという。
 唯一の艦載戦闘機J-15に代わる艦載機として、ステルス戦闘機の開発に力を注いでいると報じられた。

その他の航空機

 米DIAは、中国が開発している長距離爆撃機H-20はF-111級の戦闘爆撃機とも呼ばれる中距離戦術爆撃機と見なしている。

 中国がロシアと共同開発している40t級重ヘリコプタAHLは2032年から出荷可能という。
 中国地上軍に量産型Z-20 10t級中型ヘリが配備されたもようである。 天津で開かれた中国ヘリ展にZ-20の海軍仕様機が展示された。

 Y-20A輸送機の空中給油機型が確認された。 中国空軍はH-6U空中給油機を20機程度とIl-78M 3機を保有しているほか、海軍航空隊がH-6D給油機を数機保有している。

U A V

 CASIC社がWJ-700と共にRQ-170 Sentinelとよく似た完全自動化UAV Sky Eagleを公表したほか、中国ZT Guide社製FL-1 MALE UAVが初飛行したり、重質油エンジンのCH-4Cや高速ステルス標的機でもあるUAV LJ-1が公表されり、各種多彩なMALE UAV/TUAVが誕生した。

 中国は10月の建国70周年閲兵式で公開したWZ-8には吸気口が見当たらないことから、吸気式のエンジンではない可能性がある。 この日にはGJ-11 UCAVも公開された。

 AT200輸送用UAVの試験を2018年に終え、量産と納入を開始する。 AT200は搭載能力1,500kgで8時間又は2,000kmの飛行が可能である。

戦術ミサイル

 中国がA2/AD確保のためのASBMであるDF-21DやDF-26のほかに、弾頭重量480kg、射程280kmであるM20 TBMの対艦型と称するEOシーカ付きのM20Aを開発している模様である。

 H-6Nから発射されるALBMは、開発が最終段階にあるか、既に部隊配備を行っていると見られる。

 輸出用の地上発射型対地/対艦用超音速CM HD-1を開発した。 固体燃料ラムジェット推進の超音速CMのHD-1はMach 2~4で290km巡航する。
 ラムジェット推進のYJ-12は超音速ASCMで、射程は400kmと見られている。
 中国は10月の建国70周年閲兵式には駆逐艦が装備するロシアの3M-54 Klubと似た射程500kmのYJ-18も登場させた。

 中国軍が北京近郊で今までS-300PMU-1を配備していた2ヵ所にS-400E Triumfを配備した。 最大射程400kmとされるS-400の40N6弾は中国本土から尖閣諸島や台湾の空域が射程に入るため、日本にとって大きな脅威になり得る。
 HQ-22 MSAM 13個中隊がHQ-2に代わって配備されている。 最初の中隊は2016年9月に北京南西に、2018年に8個中隊が配備している。

 中国Poly Defence社が米陸軍のNet Firesにの陸上発射型ミサイルシステムを発表した。

陸上兵器

 NORINCO社がVT4軽戦車にAPSを装備すると報じた。 南京の民間企業が2018年殊海航空展にVelociraptor APSを出品した。

 中国企業が世界で初めて開発した水陸両用軍用USV/UGVのMarine Lizardが軍に納入された。

 アブダビで開かれたIDEX展に中国Poly Defence社がSilent Hunter車載レーザ兵器を出品した。 Silent Hunterの出力は30kWで、小型UAVを目標とした場合の有効射程は4kmという。
 中国海軍がレーザ兵器試作機の試験を行っている模様で、トレーラ搭載型が沿岸警備用、艦載用はHHQ-10 SHORAD SAMの代替として搭載されると見られる。

電子兵器

 中国が対ステルス (CVLO) のJY-27Aメートル波レーダを新たに2基新設し、合わせて少なくとも10基のJY-27Aが配備された。 F-22やF-35のステルス性は周波数が500MHz以下になると極端に低下する。

 中国国営CCTVが3月上旬にECM型のY-9の画像を放映した。 恐らくこの機体はY-9G/GX-11と呼ばれていると思われる。

1・5・1・8 高度な技術力の獲得と保持
超高速ミサイル

 中国が行った建国70周年閲兵式にDF-17が登場した。 DF-17は米国がWU-14或いはDF-ZFと呼んでた全長1.5mの超高速ミサイルである。

電 磁 砲

 中国による電磁砲の開発は2011年ごろに初めて確認され、2017年末に艦船への搭載に成功して2023年までに洋上での試験が完了し、2025年までに実配備できる見通しと見られる。

テラヘルツレーダ

 中国の研究開発機関が複数のテラヘルツレーダの試作品による試験を行っている。 テラヘルツ波は物質を透過する能力があるため地表下の物を発見できる。

サイバ戦、情報戦

 中国の関与が疑われている不正アクセスでは2019年だけで、ノルウェーのソフトウェア会社から顧客情報を窃取、オーストラリアの主要政党に対するサイバ攻撃、米海軍向けの技術情報の入手が目的とみられるサイバ攻撃などが報じられている。

 中国のサイバ戦体制は、APT40と呼ばれている海南島などを拠点にする中国ハッカ集団が、中国政府と国家ぐるみの活動をしていると報じられたほか、2015年には宇宙戦、サイバ戦、電子戦、心理戦などを担当する戦略支援軍 (SSF) を発足させた。

1・5・1・9 軍事産業の振興と武器輸出
 二大造船企業CSIC社とCSSC社が合併するなど軍事企業の再編や、NORINCO社がUGV分野での国際市場参入したり、USVの航法や制御装置の開発を専門にしているZB Intelligence社が水陸両用戦闘車やUSV/UUVの分野に進出するなど、軍事産業の振興と武器輸出の推進に力が入れられている。
 またJ-10C の輸出仕様 FC-20Eを発表するなど、中国は更なる輸出意欲を見せている。

 2019年だけでも、タイへType 071Eドック型揚陸艦の輸出、ミャンマーへのJF-17の輸出、ウズベキスタン陸軍のFD-2000 中距離 SAMの輸出と、BZK-005E MALE UAVの輸出、成果を広げている。

1・5・2 北朝鮮

1・5・2・1 金正恩体制
 3月にマレーシアで暗殺された金正男氏の息子、金ハンソル(金漢率)氏らを救援したとする団体が臨時政府を発足させたとサイトで表明した。 拠点がどこかは明らかにしていない。
1・5・2・2 核兵器放棄を巡る駆け引き
米朝首脳会談

 北朝鮮は第1回米朝首脳会談では核の放棄に条件付きながら合意していたが、2月の第2回首脳会談はいかなる合意に至らなかった。

核実験場と核関連秘密施設

 北朝鮮寧辺の核施設付近で秘密の地下施設が2ヵ所存在することが確認された。

1・5・2・3 大量破壊兵器
核兵器の保有数

 ストックホルム国際平和研究所 (SIPRI) が6月公開した2019年鑑によると、北朝鮮は2018年10~20発の核兵器を保有していると推定されたが2019年20~30発に増えた。

核兵器を放棄する公算

 国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネルは、北朝鮮が民間施設を使ってBMの製造や試験を行っているとした上で、製造、保管、試験施設を一貫して分散させる傾向にあるとしている。

 国際原子力機関 (IAEA) は、北朝鮮が非核化について協議の開催中も核関連活動を継続していたとみている。

 米国家情報庁は北朝鮮は核放棄に向けた姿勢を示しているものの、実際に核兵器能力を放棄する公算は小さいとの認識を示した。

1・5・2・4 弾道ミサイル
弾道ミサイル

 韓国で3月に、東倉里にあるミサイル基地では復旧の兆候があるとの報告があった。

 国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会が3月に、中朝国境付近にICBM基地を建設している証拠資料を公開した。 また戦略国際問題研究所 (CSIS) が5月に、平壌の北東63kmの場所に秘密のミサイル基地があるとの分析結果を明らかにした。 CSISは更に9月、北朝鮮南東部金泉里の非公表のBM基地に、火星-9 MRBMが配備されているとの分析結果を公表した。

 北朝鮮が12月に、、東倉里で非常に重大な試験が行われたと発表した。

 北朝鮮の固体燃料ミサイルを製造している咸興ミサイル工場団地の地下施設が完工したことが5月に分かった。
 また金委員長が2018年2月ごろ、ICBMなどのTELの量産を指示していた。 北朝鮮が米朝交渉に臨みながら、核やミサイル戦力の強化を進めてきた実態を示すものである。

SRBM の発射

 北朝鮮は5月以降、12回にわたって3種類の新型SRBMの発射を繰り返している。

 3種類はIskander似のKN-23、6連装の400mm MLR、4連装の600mm MLR KN-25で、この他にSLBM北極星-3の発射も行った。

SLBM の開発

 北朝鮮が新浦の造船所でSLBM 3~4基を搭載可能と見られる3,000t級の新型潜水艦の建造を本格化させている。

 北朝鮮は10月にLBM北極星-3の発射も行ったが、北極星-3の射程延伸計画も報じられた。

ICBM/IRBM の発射

 北朝鮮は現在、火星-13と火星-14、火星-15という3種類のICBM級ミサイルを保有しており、射程はそれぞれ5,500km (3,418哩) 以上、6,250哩、8,000哩と推定されており、火星-15 ICBMは多弾頭の可能性もある。

IBM 発射に対する米国の対応

 トランプ米大統領が5月に、北朝鮮による5月の短距離ミサイル発射が国連の安保理決議に違反すると思わないとの見方を示した。

1・5・2・5 生物化学兵器
 特筆すべき報道はなかった。
1・5・2・6 懸念されるその他の兵器
 北朝鮮が韓国を焦土化する特別兵器の開発と試験を行うと脅したが、特段の変化はなかった。

 サウジアラビアの石油関連施設がUAVによる攻撃された事件を受け韓国軍も対策に乗り出したが、北朝鮮もレーダ探知が難しい小型UAVはもちろん、長距離の攻撃能力を持つ自爆型UCAVの配備を進めている。

1・5・2・7 サイバ攻撃
 国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが、北朝鮮が日本を含む仮想通貨を標的とするサイバ攻撃を活発化させ、約630億円を盗んだと報告している。

 2016年に韓国の国防ネットワークから軍事機密が大量に流出したハッキング事件は、北朝鮮のハッキンググループAndarielによるものだったことが明らかになった。

 インドの原子力発電所がサイバ攻撃を受け、情報を抜き取る狙いでつくられたマルウエアが原発のパソコンで検出された。 専門家は北朝鮮のハッカー集団ラザルスが関与したと見ている。

1・5・2・8 黄海 NLL 付近での動き
 北朝鮮が黄海北方限界線 (NLL) 近くの咸朴島に探知距離30~60kmの日本製レーダを設置した。 仁川国際空港、江華島、仁川港などが事実上、北朝鮮軍のレーダ探知圏内に入ったことになる。
1・5・2・9 国連決議違反
 国連安全保理の専門家パネルの報告書によると、北朝鮮が2018年1月から8月までに少なくとも148回の瀬取りを行っている。
 これに対しわが国のほか、米沿岸警備隊、英仏加豪各国海軍が監視活動を行っている。

 国連安保理の専門家パネルが報告書で、北朝鮮は安保理決議に違反して小火器やその他の武器を仲介国を経てイエメンのフーシ派、スーダン、リビアなどに輸出していると指摘した。

1・5・3 韓  国

1・5・3・1 国内情勢
 韓国国防部が1月に刊行した2018年版の国防白書からは「北朝鮮は敵」という文言が削除され、Kill Chainや大量反撃報復(KMPR)などの用語も消えた。

 兵力については、陸軍が464,000から365,000に総兵力が599,000名の常備兵力を2022年までに500,000名に削減する。

 韓国陸軍に新たな組織である陸戦司令部 (GOC) が1月に正式に発足したが、文大統領が大統領選挙で公約にした戦略軍司令部の創設がなくなった。

1・5・3・2 国防予算
 韓国国防部が1月に2019~2023年国防中期計画を発表した。 同期間の年平均の国防費は前年比7.5%と、直近10年間の年平均増加率4.9%を大きく上回る。
 韓国国会が12月に可決した2020年度(1~12月)予算案で国防予算は、政府案と同じ2019年度比7.4%増である。
1・5・3・3 軍備増強
艦船の建造

 水上艦ではKDX-3駆逐艦の2次建造、KDDX駆逐艦計画の推進、6,000t級mini Aegis駆逐艦の設計開始、FFX-Ⅱフリゲート艦最終艦の発注とFFX-Ⅲ次期フリゲート艦詳細設計の発注などがある。
 また軽空母とも言える30,000t LPHの建造も計画されている。

 潜水艦ではKSS-Ⅰの改良、KSS-Ⅲ二次生産型の基本設計完了、改良型KSS-Ⅲの発注のほかに、原子力潜水艦の建造計画も進められている。

 更に10月にはPKK-B哨戒艇4隻が追加受注され、KK-Bの発注は16隻になった。 また各種UUV/USVの開発も行われている。

F-35 の導入

 韓国政府は2014年3月にF-35を40機購入することを決定した。 20機の追加購入も慎重に検討している。
 韓国空軍が2018年末にLockheed Martin社から引き渡されたF-35A 6機のうち2機が3月末に韓国に到着した。

 韓国政府がFXの二次計画FX-2にF-35A 20機を追加購入する方針を固めたが、軽空母が進水するのが2033年頃になることから当分はF-35Aに集中するとの方針に変わった。

その他の装備

 韓国国防省が3月、2015年に4機発注したA330-200 MRTT空中給油機の2号機を受領した。

 韓国DAPAが国内で開発した指揮統制警報 (C2A) システムの量産を開始した。

 韓国はE-7 Peace Eye AEW&Cを装備しているが、AEW&Cの増強のため2017年にDAPAがRfIを発簡している。 これに対しSaab社がGlobalEye AEW&C機を提案した。 Raytheon社と大韓航空がADEX 2019  Raytheon社と大韓航空が韓国空軍向けにGlobal 650を元にしたISR機を共同開発することで合意した。

 韓国空軍が装備するGlobal Hawkの1号機が12月に到着した。 残りの3機も2020年前半までに導入する。

KFX の開発

 KFXの開発はLockheed Martin社の支援とインドネシアの共同出資で2023年IOCを目指して進められている。

 KFX試作1号機の製造が開始された。 ロールアウトは2021年で、2022年初飛行して2026年中頃に開発を完了する計画である。

 KAI社が1月に、一旦計画から離脱するとしていたインドネシアが共同開発に復帰することを明らかにした。 ただインドネシアは現在の契約条件が不利だとして再協議を要求している。

長距離ミサイルの開発

 韓国2019年度国防予算で玄武-4の開発が計上された。 玄武-4は新型BMと言うだけでなにも分かっていない。

BMDS / SAM

 Chunggung KM-SAMを元にしたBMD迎撃弾Chunggung Block 2が韓国の言うL-SAMの可能性がある。

 韓国DAPAがるRolling Airframe Missileの後継となるK-SAAM Haegung (Sea Bow) の開発を完了したと発表した。

ヘリコプタの開発

 2018年12月18日に韓国陸軍の軽攻撃ヘリLAHがロールアウトした。 またKAI社が韓国海兵隊向けに開発した攻撃ヘリMAHの縮尺模型を公開した。
 韓国陸軍の軽武装ヘリLAHが7月に初飛行した。

 韓国KAI社が10月、Surion KUHの改良型で輸出仕様のSurion KUH 1Eを公表した。

対空兵器の開発

 韓国が9月、近距離の小型UAVや多ローターへりなどを精密打撃するレーザ対空武器の開発を開始すると明らかにした。

 陸軍首都防衛司令部がイスラエルから輸入したC-UAV用レーダを、大統領府、国会、空港など首都圏の中核施設に配備した。 このレーダはUAVを捕捉すると共に、使用周波数を無力化するという。

陸戦兵器の開発

 現代ロテム社でK2戦車第2次量産の最初の2両がロールアウトした。 また同社は10月に、K2 MBTの後継として開発中の次世代MBTを公表した。

 韓国DAPAが6月に、120mm迫撃砲をM113 APCに搭載した自走120mm迫撃砲の開発が完了したと発表した。

 韓国が現代ロテム社製8×8装輪装甲車に双連30mm砲とEO/IRセンサを搭載したSPAAGの開発を完了したと発表した。

 この他にオーストラリアが450両計画しているProject Land 400 Phase 3の候補にもなっているAS21 Redback IFV、KAAV Ⅱ 水陸両用戦闘車などが報じられた。

電子装備等の開発

 韓国が10月、国産初の沿岸監視レーダMaritime Surveillance Radar-Ⅱが9月にoperationalになったと発表した。

1・5・3・4 軍事産業立国
武器輸出振興の態勢

 韓国国防省が3月に、Defense Reform 2.0計画に基づく次世代軍事技術の開発を振興する計画を発表した。

 韓国が防衛装備の輸出拡大のため管理費の大幅削減を検討している。 韓国DAPAが3月に、武器輸出の促進のため輸出する武器が使用する輸入部品を国産品に切り替えると発表した。

 現代重工 (HHI) による大宇造船 (DSME) 買収が行われた。

武器輸出の事例

 K9 Thunder 155mm/52口径SPHは、エスニア、フィンランド、インド、ノルウェー、ポーランド、トルコの各国が装備しているほか、オーストラリア、エジプト、マレーシア、スペイン、UAEの各国でも試験を行っている。

 タイが韓国に発注していたDW3000フリゲート艦が到着した。 またタイに輸出したT-50THにレーダ等を搭載してFA-50並の装備にする契約を行った。

 マレーシアは当初12機、その後更に24機の調達を検討している軽戦闘機についてFA-50を候補としている。
 イラク空軍が11月にT-50IQ高等練習機の24号機にして最終号機を受領した。

 大宇造船海洋 (DSME) 社がインドネシアから1,400t級の潜水艦3隻を受注した。 同社は2011年にもインドネシアから1,400t級潜水艦3隻を受注している。

 現代重工 (HHI) が2016年にニューーランドから受注した洋上補給艦が4月に進水した。 同艦は2020年に就役する。

 現代重工業 (HHI) 社がフィリピンから受注したフリゲート艦の2番艦にして最終艦が進水した。
 フィリピン海軍が韓国から購入したKAAV水陸両用戦闘車4両が就役した。

 韓国Hanwha社がオーストラリアにRedback IFVの試作車3両を売却する契約を締結した。

1・5・3・5 対外関係
対米関係

 韓国国防省が6月、将来設置される米韓統合軍の司令官に韓国の陸軍大将が付くことで米韓両政府が合意したと発表した。 また同時に、現在米陸軍大将が司令官となっている統合軍司令部をソウルの龍山から、ソウル南方のCamp Humphreysに移設することでも合意した。

米韓合同演習

 全面戦に備えた米韓合同指揮所演習として毎年上半期に実施されていたKey Resolveが中止され、代わって「同盟」演習が行われた。

 毎年上半期に実施されていた米韓合同演習Foal Eagleの名称が消滅する。 これまでFoal Eagleの期間中に実施していた合同演習のうち、大隊級以下の演習は例年通り実施する。

 Foal EagleやKey Resolveと同規模の毎年秋に行われるUlchi Freedom Guardianは2018年に中止された。

 米韓合同の大規模空軍演習Max Thunderが公式に廃止された代わりに、規模を縮小した連合編隊群総合演習を行った。

 朝鮮半島の非核化に向けた外交努力を支援するとともに、演習に強く反発する北朝鮮に配慮して、米韓空軍大規模合同演習Vigilant Aceを、2018年に続き2019年も実施しなかった。

米国の対韓不信

 防衛研究所が4月に発表した報告書では、韓国は制裁をなし崩し的に緩めようとしているのではないかという疑念を米国に持たれているようだと分析している。

 韓国政府は破棄決定を公表したことに対して米側は「失望している」などと激しく反発していた。 また米国務省は8月、韓国が竹島とその周辺で大規模演習を行ったことに関し、日韓対立が高まっている中での演習実施は現在の事態解決をする上で生産的でないと批判する声明を出した。

 その様な中、9月にソウルで開かれるソウル安保対話 (SDD) に米国政府が不参加を決めた。

対中関係

 特筆すべき報道はなかった。

1・5・3・6 日韓関係
竹島を巡る対立

 韓国海軍が8月、韓国が実効支配する島根県竹島の「防衛」を想定した訓練を行った。

 内閣官房が9月、米国政府が1950年に竹島を日本領と認識しているとの見解をオーストラリア政府に伝えた内容が記載されたオーストラリア側の文書が見つかったと発表した。

P-1 哨戒機へのレーダ照射問題

 韓国国防省が1月、2018年に海上自衛隊のP-1が韓国駆逐艦からFCSレーダの照射を受けた問題で、韓国の艦艇に対し威嚇的な低空飛行をしたとして謝罪を要求し問題点のすり替えと責任の転嫁をしてきた。

 これに対してわが国は、釜山で開かれるASEAN拡大国防相会議に合わせて実施される多国間海上共同訓練に不参加、韓国を海上自衛隊の観艦式に韓国海軍を招待しないなどの対抗処置に出た。

日韓の軍事情報包括保護協定 (GSOMIA) の継続問題

 韓国大統領府が8月、24日が更新の判断期限だった日韓軍事情報包括保護協定 (GSOMIA) を破棄する決定をした。
 この問題は米政府の強い反対に遭い、韓国政府は11月23日午前0時の失効期限が迫る22日に日本政府に対して終了させない方針を伝達した。

1・5・4 台  湾

1・5・4・1 防衛を巡る台湾の国内環境
 台湾国防部が9月に2019年度版の国防報告書を公表した。 国防報告書は2年に1度発表しており、蔡英文政権では2冊目となる。
 全体の防衛構想は前回提示した「防衛固守、多重抑止」を引き継いでいて、戦力防護、沿海決勝、灘岸せん滅を3本の柱としている。

 台湾地区・大陸地区人民関係条例を制定した。 条例には中国政府が発行し中国人と同等の待遇を与える居住証を取得した者に対し、居住証を放棄してから一定期間経過しなければ、選挙への立候補や、軍人、公務員などの職に就くことを禁じるとする内容も盛り込まれている。

 台湾国防部が8月、中国の軍事力に関する2019年の報告書を発表した。 その中で中国の台湾侵攻能力について、全面的に台湾を侵攻する正規の作戦能力が備わっていないとし、現時点で可能性が高いのは、軍事威嚇、封鎖作戦、火力打撃だとの見方を示し、上陸作戦について現時点では中華民国の離島を奪取しうる作戦能力しかないとしている。

 台湾は防衛産業の育成や年次演習の規模拡大などを行い防衛力の強化を図っている。

1・5・4・2 米台関係
米国の米台関係諸法

 米国の基本姿勢は米台関係諸法に見られる。
 台湾への定期的な武器売却や高官の台湾訪問などを提唱するアジア再保証イニシアチブ法(ARIA)が2018年12月に成立し、5月には米国による台湾への武器売却を常態化すること、米台貿易協定の協議を再開すること、そして台湾の国際組織加入を支援することなどが含まれた台湾保証法案が成立した。
 更に12月に成立したFY20国防権限法 (NDAA) では、台湾への武器売却を支持する内容が盛り込まれている。

米台の交流

 米国の対台湾代表機関である米国在台協会(AIT)が4月、AIT台北事務所に2005年から現役の米軍人が警備のため常駐していることを明らかにした。

 台湾の蔡総統が3月に南太平洋歴訪の帰路ハワイに立ち寄った。

 台湾総統の諮問機関である国家安全会議のトップが5月に訪米し、安全保障政策を担当するボルトン大統領補佐官と会談した。

 8月には米国在台協会 (AIT) の台北事務所長(大使に相当)が高雄市の軍事施設を視察し、その様子をAITのFacebookやInstagramに数回にわたり写真とともに投稿した。
 AITが台湾の軍事施設への訪問を公表するのは異例である。

米海軍艦船の台湾海峡通過

 米海軍艦船がほぼ毎月台湾快挙絵鵜を通過した。 また8月、9月、11月にはMC-130特殊作戦機も台湾海峡上空を飛行した。

台湾への武器売却

 トランプ米政権が7月、戦車108両とSAMなどの装備品を台湾に売却することを承認し、議会に通知した。 売却されるのはM1A2 Abrams MBTやStinger MANPADS及び多数の弾薬などである。
 また米政府は、従来台湾への武器輸出を複数の案件を1度に通告する同梱方式から、案件ごとに通告する通常のFMS方式に切り替えることにした。
 更にトランプ政権は8月、台湾に新規製造のF-16V数十機を売却する決定を行った。

米台合同演習

 台湾と米国が共同主催する2013年以来隔年で実施されてきたサイバ攻防戦演習CODEを実施した。

 台湾空軍の飛行訓練が米国で行われている。 訓練や支援は米アリゾナ州Luke AFBに配備されているF-16に対して行われる。

1・5・4・3 その他諸国との関係
 フランス海軍フリゲート艦の台湾海峡通過を始め、カナダ海軍のフリゲート艦と補給艦、英海軍測量艦などが台湾海峡を通過した。

 太平洋島嶼国では今なお台湾と外交関係を維持している国々があり、その一国であるツバルはマーシャル諸島、パラオ、ナウルの3ヵ国と台湾との連携を強化していく方針を打ち出した。

 一方、ソロモン諸島は9月に、台湾と外交関係を断絶し中国と国交を樹立することを決めた。

1・5・4・4 日台間係
 蔡総統が1月、台湾の防衛力強化に協力してくれる全ての国と共に努力したいと述べ、米国だけでなく日本との安全保障協力にも期待をにじませた。

 ただ日米が共に懸念しているのは、台湾の軍関係者が中国を訪れた際に機密情報を漏えいしたケースがある点だとして、台湾の謝駐日代表が3月に台湾は機密保持をより徹底するべきだとの考えを語った。

1・5・4・5 台湾の防衛力整備
国 防 費

 8月に決定した台湾の2020年度予算案では、国防部所管予算は前年度比5.2%増である。 台湾国防省は現在2%である国防費の対GDP比を、2027年までに数年後には2.4%に引き上げる。

防衛産業の育成

 台湾立法院が国防及び他の戦略分野での外国からの投資を促進する法案を可決した。 法案では外国からの投資に対し税制上の優遇措置を求めている。

航空機

 台湾NCSISTが戦闘機の国内開発を視野に、2018年から戦闘機用エンジンの開発を行っていることを明らかにした。

 台湾で、次期高等練習機AJT(T-5 Blue Magpie)がロールアウトした。 双発で亜音速のAJTは1990年代に開発した超音速戦闘機FC-K-1を元にしている。

艦 船

 台湾初の潜水艦建造を担当する高雄市の台湾国際造船社が5月9日、台湾最大の海軍基地がある高雄港で専用工場の建設に着手した。
 潜水艦は排水量は2,500~3,000tで2024年7~9月に進水し2025年末に就役の計画である。

 台湾が国産コルベット艦沱江の量産を開始し、5月に起工式が行われた。 2025年までに3隻が建造される計画で、1隻目は2021年末に完成する。
 海軍の沱江級コルベット艦を元に海洋委員会海巡署(沿岸警備隊)向けに建造した600t級警備艦の進水式が12月に行われた。

 台湾が自力で建造する4,000t級大型警備艦4隻の起工式が2月に行われた。 初号艦は2020年12月に海洋委員会海巡署(沿岸警備隊)に引き渡される。

巡航ミサイル

 台湾の防衛当局者が2月、台湾がHF-ⅡBの改良を決め、改良を2023年までに完了することを明らかにした。 改良は現在の射程160kmを250kmまで延伸するもので、一般にはHF-ⅡERと呼ばれていると述べている。

 敵のレーダに自爆攻撃を行う国内開発の無人攻撃機剣翔が公開された。 2019年から量産を始めており6年間で104機を配備する。

U A V

 偵察監視用 UAV 鋭鳶、MALE UAV 騰雲のほか、各種多ロータUAVを開発している。

I F V

 雲豹 CM-34 IFVやその発展型である雲豹Ⅱ M-2 装輪 APCを開発装備している。

1・5・5 東南アジア

1・5・5・1 ASEAN
 米国とASEAN加盟国の海軍による初めての共同演習が9月にタイ湾や南シナ海で行われた。
 ASEANは2018年10月には、中国と初の海洋演習も実施ししている。
1・5・5・2 フィリピン
対外関係

 フィリピン政府が4月、南シナ海Pag-asa島付近を中国の漁船と沿岸警備艇合わせて275隻がここ数ヵ月間航行したとして違法だと抗議した。 かつての対立を一時期抑えていたフィリピンが、改めて中国を公然と非難した。
 しかし、南シナ海でフィリピンの漁船が中国船に当て逃げされた事故をめぐり、ドゥテルテ大統領が事態を軽視する発言をして、対中姿勢にブレを見せている。

 ドゥテルテ大統領は10にロシアのプーチン大統領と会談し、ロシアとの軍事、安全保障分野での協力拡大に意欲を表明し、ロシアとの関係を重視する姿勢を打ち出した。

 一方で米比関係も元に戻りつつある。
 米軍来援時の施設がルソン島に開設される式典が1月に開かれた。 この施設は同島に数ヶ所設置される最初の施設で「人道支援及び災害救助の拠点」とされている。
 比空軍のFA-50と米空軍が行う共同訓練BACE-Pに参加する米空軍第113戦闘航空団のF-16が1月18日にフィリピンのCesar Basa空軍基地に飛来した。
 フィリピン軍と米軍の定期合同演習Balikatanが4月に始まり、米比合同演習Kamandagが10月に始まり、米軍1,400、比軍350と共に自衛隊100名も参加した。
 更に米第7艦隊旗艦のBlue Ridgeが恒例の訪問として、南シナ海を経てマニラ湾に入港した。

装備の近代化

 韓国HHI社に発注している2隻のFFX-Ⅰフリゲート艦に装備するほか、韓国から退役コルベット艦を購入した。
 多用途戦闘機の導入も計画しており、候補機種にGripenとF-16Vが上がっている。
 更にインドとBrahMos超音速CMの購入交渉を行っており、2020年に購入契約が結ばれる模様で、BrahMosは10月に新編された比陸軍第1陸上ミサイル中隊が装備することになる。

1・5・5・3 ベトナム
 米国から元米沿岸警備隊のHamilton級警備艦の供与を受けた。
1・5・5・4 インドネシア
 フィリピンとインドネシアの首脳会談で、重複する両国の排他的経済水域 (EEZ) の境界線を画定した協定を2019年中に発効させる方針で合意した。

 インドネシア国防省が2020~2040年に、軍事生産能力向上を狙った官軍民協力による効果を求めた計画を公表した。

 インドネシアが韓国から潜水艦やフリゲート艦を購入しているが、戦車揚陸艦 (LST) 2隻をPT Bandar Abadi社に追加発注した。 同国海軍は2012年に一次分2隻、2013年に二次分2隻、2017年に三次分3隻のLSTを発注している。

 インドネシアが11機発注したSu-35の引き渡しが2019年内に開始された。
 インドネシアは30機保有している1990年代中頃製のHawk 109/209の後継として、2020~2024年間にF-16V Block 70/72 2個飛行隊分を導入する計画である。

1・5・5・5 マレーシア
 マレーシア政府が中国の政府系企業と共同で進めていた東海岸鉄道計画について、両国が新たな合意文書に署名した。 マレーシアは当初、財政難を理由に計画を中止する方針だったが、中国側が事業費の大幅削減に同意したため計画を継続するという。

 マハティール首相が7月、パイプラインの建設中止を巡り中国国有企業である中国油天然気管道局 (CPP) の銀行口座を差し押さえた。 工事費の80%が支払い済みなのに13%しか完了しておらず事業が中止されたため、未完の分の資金を取り戻すという。

 マレーシアが経費削減のため、中国に4隻発注している沿岸警備艦 (LMS) の2隻をマレーシア国内で建造するとしていた当初の計画を止めて、今4隻全て中国で建造することにした。
 沿岸警備艦 (LMS) の一番艦は4月進水し2019年末には引き渡されるという。

 ロシアがマレーシアの戦闘機更新にSu-35かMiG-35 28機の提案を行っている。 マレーシアは2007年からSu-30MKM 18機を装備しているがこの他に1990年代中頃に購入したMiG-29 10機を最近退役させている。

 オーストラリアとマレーシアが9月に防衛生産の協力拡大で合意した。 一方8月にはロシアとの武器取引の円滑化を期するため軍事企業の協力を強化することで合意した。

1・5・5・6 シンガポール
 空軍がF-15SGの訓練場を空域がすいているニュージーランドに設ける計画であったが現地住民が反対などで計画が中止され、グアムAndersen AFBに戦闘機を常駐させることにした。

 国防相が3月に議会で、2030年を目標に陸海空軍の主要装備を更新する計画であることを明らかにした。

 シンガポールのST Engineering Land Systems社がSRAMS 120mm迫撃砲の新型Mk Ⅱと迫弾を開発した。
 国防省がネット上で次世代装軌装甲車NGAVシリーズのミサイル装備型NGAFVを公表した。 またHunter ATGM搭載AFVも初公開した。
 ST Engineering社が、スウェーデン陸軍が装備しているBv206を使用しているユーザ向けにBronco 3を開発した。

 ドイツThyssenKrupp社のType 212Aを元にして4隻建造するType 218SGの一番艦が2月に進水した。 シンガポールへの引き渡しは2021年になる。
 海軍が8隻建造する満載時排水量1,250tの沿岸警備艦 (LMV) 最終艦が11月に母港となるTuas海軍基地に入港した。

 現在装備してしているF-15SG 40機とF-16C/D Block 52/52+ 60機を、2030年頃にF-35に換装する計画である。

1・5・5・7 タ イ
 タイ海軍が4月にアンダマン海で初めて、Type 053 HT(H)フリゲート艦からC-803A中距離ASCMの発射試験を行い、100km遠方の移動目標に向けMach 0.94で飛翔した。
 武昌造船所で9月、タイ海軍向けS26T潜水艦一番艦の船台組み立てが開始された。 完成引き渡しは2023年に計画されている。
 タイ海軍が9月に中国CSICL社と、Type 071E LPD建造の契約行った。 タイはこの艦をS-26T潜水艦の支援艦としても使用するという。

 タイ陸軍が内閣にNorinco社製VT-4 MBT 14両の追加購入を要求している。 タイは2016年に28両、2017年に10両のVT-4を購入しており、今回の要求が認められれば52両を保有することになり、保有しているM-41の後継として更にMBT 100両の調達を考えている。

 KAI社がタイ空軍から受注したT-50TH練習機の能力向上では、Elta社製EL/M-2032レーダなどが搭載されるが、これらはT-50の戦闘機型であるFA-50では既に搭載している。

1・5・6 大洋州

1・5・6・1 オーストラリア
 オーストラリアのシンクタンクが、同国北部の海空防衛が時代遅れで、中国の軍事進出に対し脆弱であるとした。

 オーストラリア政府のFY2019-20国防予算は対GDP比は1.93%と、FY2020-21に対GDP比を2%にするとした目標に一歩近づいた。

 西オーストラリアのパースから2,750km、クリスマス諸島から900km離れたインド洋のココス・キーリング諸島にある滑走路を、P-8A Poseidonの運用に合わせて拡幅強化する。

 太平洋諸国のインフラ事業に資金供与したり、太平洋地域12ヶ国に警備艇を供与したりと、南太平洋諸国との連携を強めている。

 中国の進出によりオーストラリア北部州Darwinに巡回駐留している米海兵隊の役割が高まっており、米豪両国は米空軍と海兵隊の活動のため、北部州で航空機の整備、支援施設、燃料貯蔵、宿舎の改築、訓練場射場の整備などを行う。
 米海兵隊が駐留する北部ダーウィンで新たな港湾施設の建設が計画されており、港湾は米海軍のWasp級強襲揚陸艦などが停泊可能な規模で、軍民両用となる見通しである。
 米豪合同Talisman Sabre演習に沖縄駐留海兵隊からHIMARS 3基が参加して実射を行ったが、演習終了後もダーウィンに残留して巡回派遣されている2,500名の海兵隊と合流する。

 豪国防省が通称Loyal Wingmanと呼ばれている大型UAV BATSを開発しており、2020年に初飛行が行われる。
 Loyal WingmanはF-35AやE-7A Wedgewood AEW&C機を援護する為に使用するという。

 RBS-70 VSHORADに替えてNASAMSの採用を決めているオーストラリアは、レーダにはオーストラリアCEA社製を車載して使用する。

1・5・6・2 ニュージーランド
 ニュージーランドのたFY2019-2020国防予算は、前年度を23%上回っている。 この中にはP-8A Poseidon 4機の購入などが含まれている。
1・5・6・3 南太平洋諸国
 米国が過去37年間で初めてPacific Pathways演習の一環として、パラオに200名規模の部隊を派遣する。 派遣されるのは歩兵1個中隊と1個大隊戦闘指揮所要員である。

 中国は2019年初めに豪海軍の基地改良工事の契約を行ったパプアニューギニア沖合のManus島について、ソロモン諸島が10月に中国企業に対し全島を貸与することに合意している。

 ソロモン諸島の地方自治体が中国企業と結んだTulagi島の長期賃貸契約をソロモン諸島政府が無効と宣言した。

1・6 国 内 情 勢

1・6・1 防衛体制

1・6・1・1 制度・組織

 外交安全保障政策の司令塔を担う国家安全保障局 (NSS) に経済分野を担当する部署を新設する。 具体的には審議官ポストを新設し、経済班を立ち上げる。

 三沢基地にF-35A最初の飛行隊をを三沢基地の第3航空団に発足させた。 当初は12機、80名態勢で発足するが、最終的には20機程度の飛行隊になる。 F-35Aの飛行隊は、F-4を装備する第302飛行隊の名称を引き継ぐ。

1・6・1・2 周辺脅威の増大

中国からの脅威

 2019年版防衛白書では、中国は日本の周辺海域や空域での活動を活発化させているだけでなく、米国やロシアを大きく上回る約30基の軍事衛星を2018年に打ち上げ、宇宙やサイバといった新たな領域での能力を増強していることを強調し、強い警戒感を示した。

北朝鮮からの脅威

 北朝鮮が11月、日本上空を越える中長距離ミサイル発射の可能性を示唆し、日本を牽制した。

ロシアからの脅威

 特筆すべき報道はなかった。

1・6・1・3 韓国との関係

対  立

 FNN日韓対立の原点となった韓国による兵器に転用可能な物資が第三国に不正輸出について、韓国政府作成の不正輸出リストによると兵器に転用可能な物資が第三国に不正に輸出された案件は、2015年から2019年3月にかけて156件に上っている。

 2019年版防衛白書で安全保障で協力する国々を紹介する章では、韓国の記載順がオーストラリア、インド、ASEANに続く4番目で、2018年版の2番目から後退した。

協  力

 韓国軍が日韓関係が最悪に達しているなかの9月にアデン湾で、日韓伊3ヵ国による合同訓練を日韓が主導して行った。 日本からは護衛艦、韓国からは駆逐艦、伊海軍からはフリゲート艦のそれぞれ1隻が参加し、日韓は共同で船舶臨検訓練を行った。
 アデン湾で日韓合同訓練は数回行われおり、臨検訓練も今回が初めてではない。

 北朝鮮が10月に発射したBMについて、韓国の要請に応じて11月に有効期限が切れる日韓の軍事情報包括保護協定 (GSOMIA) に基づいて日本の情報を提供した。

1・6・1・4 テロ対策

 武装工作員が国内に侵入し、自衛隊に治安出動命令が出されたという想定で、県警と陸上自衛隊による治安出動を想定した共同実働訓練が行われている。

 防衛省が6月、小型UAVの飛行規制対象を広げる改正ドローン規制法の施行に合わせ、対象となる防衛関係施設として市ケ谷の防衛省など13ヵ所を指定した。

1・6・1・5 国際交流

 海上自衛隊が西太平洋各国の海軍若手士官を招き、日本の安全保障環境への理解を深めてもらう交流事業が10月に行われ、韓国や中国、インドネシアなど27ヵ国から20~30代の士官30名が参加して交流した。
1・6・2 防衛予算

1・6・2・1 令和元年度防衛補正予算

 12月に臨時閣議で決定した令和元年度の補正予算案に、防衛省がPAC-3の改良費などを盛り込み、1回の補正予算としては過去最大となる4,287億円を計上した。
1・6・2・2 令和2年度防衛予算

 12月に閣議決定した令和2年度予算案で防衛費は元年度当初比1.1%増の5兆3,133億円となった。
 政府が決定した令和2年度予算案で、防衛費の伸び率は1.1%と米中などに比べて低水準である。 防衛費の対GDP比は1%以内で推移してきており、2年度予算案も0.9%となった。
 ストックホルム国際平和研究所 (SIPRI) が4月に発表した2018年の世界の軍事支出で、日本は前年とほぼ同額で順位は2017年の8位から9位に後退した。
1・6・3 ミサイル防衛

1・6・3・1 全体構想

 岩屋防衛相が8月、北朝鮮が発射したミサイルの軌道が変則的だったとし、北朝鮮は日本の防衛網を突破する新たなSRBMを開発しているようだと述べた。

 北朝鮮が5月以降に発射を繰り返した短距離ミサイルを、日本が複数回にわたり軌道を探知できなかった。 日本を射程に収める可能性があるミサイルも含まれており、低い高度や変則的な軌道のため捕捉できなかったとみられる。

1・6・3・2 SM-3 Block ⅡA

 SM-3 Block ⅡA共同開発について特筆すべき報道はなかった。

 米国務省が1月、米国防安全保障協力局 (DSCA) から申請のあった日本に対するSM-3 Block ⅡA 13発とBlock ⅠB 8発の輸出を承認した。
 また、米国務省は4月に、SM-3 Block ⅠB 56発の日本への売却を承認し米議会に通知した。

1・6・3・3 Aegis Ashore

 米国防安全保障協力局 (DSCA) が日本向けのAegis Ashore 2個システムの売却契約を承認した。 契約にはAegis Weapon System、Multi-Mission Signal Processor、Command and Control Processor Refreshそれぞれ2個システムのほか、無線航法装置、見方識別装置 (IFF) や、収納施設の建設やVLS 6基の収納建屋も含まれている。

 Aegis Ashoreに日本企業が開発した基幹部品の搭載が見送られる方向であることがわかった。

 岩屋防衛相が配備に向けて準備を進めているAegis Ashoreについて4月、当初目指していた令和5年度の運用開始は難しいとの見通しを示唆した。 Aegis Ashoreが装備するLMSSRレーダは令和元年度から5年かけて製造した後に性能の確認試験や設置等の作業を行うため、運用開始は令和6年度以降になる。
 また防衛相は、取得価格のみで2基で2,400億円余りと見積もられているAegis Ashoreは、米国に実射試験施設を建設するため追加の費用負担が生じる可能性があるという認識を示した。

 わが国が導入するAegis Ashoreに、AEW&C機やAegis艦と情報を共有する共同交戦能力 (CEC) システムを搭載しないことが分かった。 このためわが国のAegis AshoreはBMDのみに特化され、航空機やCMに対する防空能力は持たないことになる。

 防衛省が11月にレーダを取り付ける建屋や隊舎など施設の設計業者と契約を締結した。 契約はレーダを取り付け施設のほか、事務所や宿舎など19施設で、納期は2021年3月末となっている。

 政府がAegis Ashoreの配備先について、秋田市の陸上自衛隊新屋演習場を見直す方向で検討に入った。 新たな配備先については、新屋演習場を選定した過程で浮上した秋田県内を含む別の19ヵ所を中心に検討するとみられる。
 このため2025年としているAegis Ashoreの配備時期がずれ込む可能性が出てきた。

1・6・3・4 早期警戒衛星保有へ

 北朝鮮などのBM発射を探知する早期警戒衛星機能の保有に向け、人工衛星にセンサを搭載した実証試験に乗り出す。
 センサは宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が令和2年度にH-2Aで打ち上げる先進光学衛星 (ALOS-3) に搭載される。
1・6・3・5 03式中SAMに BM 迎撃能力

 防衛省が北BM脅威が高まっていることを受け、03式中SAMを改修してBM迎撃能力を付与する研究を令和2年度開始する。
 北朝鮮が開発している変則軌道で飛来する新型ミサイルなどに対応する性能を目指すもので、は誘導弾や射撃管制装置を改修する技術検証に着手する。
1・6・3・6 BMD の実行動

 防衛省が10月に市ヶ谷の同省敷地内にPAC-3を展開した。 北朝鮮がICBMの発射再開などを示唆したことを受けた措置である。

 政府が12月に北朝鮮による年末年始に予想されるBM発射に備えて警戒にあたるAegis艦を2隻体制に増やす方針を固めた。
 政府は11月頃に日本海側でAegis艦1隻を展開したとみられているが、日本海側に加え、東シナ海周辺でも監視にあたる。

1・6・4 我が国周辺の警備

1・6・4・1 海洋安全保障政策の推進

 特筆すべき報道はなかった。
1・6・4・2 中国に対する監視強化

 東シナ海以外での中国に対する監視も強化されている。
 海上保安庁が3月に沖ノ鳥島沖合で、中国の海洋調査船嘉庚がロープのようなものを海中に伸ばして航行しているのが確認した。 中国の海洋調査船が調査活動を行っているとみられる。

 中国軍機が東シナ海で日本の艦船を訓練の攻撃目標にした。
 東シナ海の日中中間線の中国側ガス田周辺海域で、中国のJH-7複数機が航行中の海上自衛隊護衛艦に対艦ミサイル射程距離まで接近したのを、自衛隊の複数の通信傍受部隊が中国機の無線通信を傍受したことで知った。

1・6・4・3 南西防衛を重視した部隊配置

部隊の配置

 陸上自衛隊が3月、水陸機動団を300名増強して2,400名態勢とすると共に、拠点とする相浦駐屯地の南東約10kmに分屯地を開設した。

 陸上自衛隊が3月に宮古島に駐屯地を新設した。  配置されるのは、SAM部隊とSSM部隊と警備隊で計560名であるが令和元年度は警備隊のみ380名を置き、部隊は令和2年度以降に配置して最終的に700~800名規模にする。

 政府が2月に、陸上自衛隊の駐屯地を奄美大島にそれぞれに新設することを柱とする部隊の改編を決定した。 奄美大島には奄美駐屯地を中心に警備隊、SAMとSSM部隊を合わせて550名を配置する。

 防衛省は令和2年度末までに80名程度の電子戦部隊を健軍駐屯地に新編する。 同駐屯地には3月にサイバ攻撃に対処する約40名の方面システム防護隊が発足している。

訓練施設等の新設

 政府と地権者側が11月、米軍空母艦載機離着陸訓練 (FCLP) 候補地となっている馬毛島の売買契約を結んだ。 馬毛島では、航空自衛隊に導入予定のF-35Bの離着陸訓練も実施する。
 防衛省は令和2年度に飛行場など関連施設の工事を始める方向で調整に入った。

 鹿児島県十島村の肥後村長が自衛隊を誘致する方針を正式に表明した。 十島村には防衛省が離島奪還作戦に備えた初の訓練場を整備する候補地に浮上している臥蛇島がある。

島嶼防衛を想定した演習

 自衛隊が11月に実動訓練である自衛隊統合演習を開始する。 今回の統合演習は32,000名が参加し、総合ミサイル防空や電子戦などを国内や周辺の海空域で実施すると共に、IAMD演習ではBMやCMなど多様化する攻撃にAegis艦やPAC-3でに対処する。

 陸上自衛隊が九州各地で実施している島嶼防衛を想定した鎮西演習の一部で奄美大島で行われた対空戦闘訓練などが11月に公開された。

1・6・4・4 航空自衛隊の緊急発進

 自衛隊の緊急発進が、令和元年度上半期に470回あった。 前年度同期比91回減である。
 防衛省によると、中国機への対応は13回減の332回で、スクランブル全体の7割を占め、ロシア機への対応は76回減の135回であった。
1・6・4・5 竹島周辺事態への対応

 特筆すべき報道はなかった。
1・6・4・6 中台有事への対応準備

 特筆すべき報道はなかった。
1・6・4・7 大和堆警備事案

 海保によると8月に大和堆周辺で日本の排他的経済水域内で取り締まりをしていた水産庁の監視船から通報を受けて巡視船が駆け付けたところ、、高速艇と北朝鮮の国旗が描かれた貨物船のような船を確認した。 この際、巡視船に対し北朝鮮船とみられる高速艇が接近し、乗組員が小銃を向けて威嚇していた。

 日本海大和堆周辺水域で10月に水産庁の漁業取締船が北朝鮮漁船に体当たりされた。 漁業取締船が北朝鮮漁船に対し日本のEEZから出るように警告していた際に発生した。

1・6・4・8 離島管理の強化

 政府関係者が国境離島の管理を徹底するため、各府省庁が保有する離島ごとの情報を共有できるよう新たなデータベースを構築する方針を固め、令和元年度中に着手する。

 警察庁が令和2年度に、武装した集団が離島に不法上陸するといった事態を想定した国境離島の警備にあたる高度な能力を備えた多数の隊員で構成する専門部隊を沖縄県警に創設する。

1・6・4・9 海上保安部隊の増強

 1948年に設立された警察機関である海上保安庁は、開庁以来使っていた英語名Maritime Safety Board(MSB)を、2000年にJapanese Coast Guard (JCG)に改め、諸外国の沿岸警備隊・国境警備に相当する組織であることが明確にした。

 尖閣諸島周辺の領海警備強化に向け3月、海上保安庁の規制能力強化型の新造巡視船2隻が宮古島海上保安部に新たに配備され伊良部の長山港に入港した。
 巡視船は今回の2隻で計9隻となり尖閣専従体制が整った。

 尖閣諸島周辺の領海警備のため石垣島に最大級の新型巡視船を配備する。 新型船は6,500総トンと海保最大級のヘリ搭載型巡視船 (PLH) で、令和3年度の配備を目指している。
 海上保安庁は現在、尖閣周辺を大型巡視船12隻を専従に対応しており、新たなPLHは専従体制の枠組みに含めないで、尖閣領海警備の現場指揮船として運用する。

 海上保安庁が尖閣諸島周辺の警備を強化するため、海上保安庁最大の6,500総トンヘリ搭載型巡視船3隻を鹿児島港に配備する。 同港は国内最大の警備拠点となる。  海上保安庁は令和2年度末までに鹿児島港に3隻、3年度末までに石垣島に1隻を配備する。

 海上自衛隊と海上保安庁が6月、南シナ海のブルネイ沖で共同訓練を実施した。 共同訓練は海自から護衛艦いずもなど3隻、海保からは巡視船つがるが参加した。

 三菱重工業長崎造船所で3月8日、全長150m、6,500総トンと、海上自衛隊の護衛艦に匹敵する海上保安庁で最大の巡視船れいめいが進水した。 ヘリコプタ1機も搭載する。
 尖閣諸島の警備にあたるため建造されていた海上保安庁の最新鋭の巡視船が進水した。 建造された巡視船しゅんこうは6,000総トンで、従来の船に比べ搭載する放水銃と警備艇の数を増やし不審船の取締りなどにあたる。

 海上保安庁が大型UAVの導入を検討している。 海保は2018年5月には米GA社のGuardianのデモ飛行を視察しており、同機などの実機を借り入れて実証試験や機種選定を進める方針という。

1・6・5 海外活動

1・6・5・1 ペルシャ湾への派遣

 政府が12月、情報収集強化を目的とする中東海域への海上自衛隊の派遣を閣議決定した。
 ソマリア沖アデン湾で海賊対処活動にあたるP-3C 2機のうち1機を活用し、2020年1月下旬に情報収集活動を始める。
1・6・5・2 艦隊の海外派遣

 海上自衛隊が4月、護衛艦いずもむらさめを南シナ海やインド洋に派遣し、東南アジア各国と共同訓練に参加させた。
 2隻はベトナムやフィリピン、シンガポールなどに寄港した。

 陸上自衛隊水陸機動団の300名がオーストラリアまで2週間かけて輸送艦で移動し、日米共同訓練に参加する初の大規模な機動訓練を行った。

1・6・5・3 国連 PKO 活動

 特筆すべき報道はなかった。
1・6・5・4 安全保障関連法に基づく国際連携平和安全活動

 政府が2月、シナイ半島でイスラエル、エジプト両軍の停戦監視活動をする多国籍軍監視団 (MFO) に司令部要員として自衛官2名を派遣する決定をした。  安全保障関連法で新設された任務である国際連携平和安全活動の初適用となる。
1・6・5・5 人道支援活動

 特筆すべき報道はなかった。
1・6・5・6 爆発装置処理隊の新編

 国内の有事や国連平和維持活動 (PKO) などに派遣される陸上自衛隊の中央即応連隊に3月、IEDを処理する専門部隊の爆発装置処理隊が新編された。
 将来の海外派遣や、安全保障関連法に基づく在外邦人保護活動に投入することを念頭に置いている
1・6・6 将来戦への対応

1・6・6・1 サイバ戦

 政府がサイバ攻撃情報を官民で共有する新組織サイバーセキュリティ協議会事務局を4月に発足させた。

 防衛省は陸、海、空の3自衛隊に分かれていたサイバ防衛に関する教育を令和元年度から一元化し、2年度以降は有事の際に相手の通信ネットワークを妨げる反撃能力に関する技能を持つ専門人員の育成を始め、高度になる中国や北朝鮮によるサイバ攻撃の脅威に備える。

 防衛省はサイバ防衛の先進国として知られているエストニアにあるNATOのサイバ防衛協力センタに、防衛研究所の職員1人を派遣した。
 自衛隊が12月、NATOが主催する米国を含むNATO加盟国など30を超える国と地域が参加する演習Cyber Coalition 2019に初めて正式参加した。
 演習ではエストニアのコントロールセンタを拠点に、各国のサーバをオンラインで繋ぎ、サイバ攻撃を受けた場合を想定して連携して訓練した。

 日米政府が4月に行われた2-plus-2で、大規模なサイバ攻撃にも米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約5条が適用されことを初めて確認した。

 防衛省が3月に南西諸島に展開する自衛隊へのサイバ攻撃を防ぐため、陸上自衛隊西部方面隊に方面システム防護隊を新設した。
 方面システム防護隊は50名で編成され、24時間態勢でサイバ攻撃に備える。

 政府が日本の安全保障を揺るがすようなサイバ攻撃を受けた場合に反撃するとして、防衛省でコンピューターウイルスを作成、保有する方針を固め、令和元年度内に作成を終える。
 防衛省がAIの活用を大幅に拡大するため、令和2年度予算にサイバー関連の必要経費、補修に関する調査研究費をそれぞれ盛り込む。
 総務省が、解読困難な量子暗号と呼ばれる次世代技術の2025年に実用化を目指して研究開発を加速するため、令和2年度予算の概算要求に研究開発費を盛り込む。

1・6・6・2 宇宙利用、宇宙防衛

 政府の宇宙政策委員会が3月、令和元年度の宇宙基本計画工程表改訂に向けた議論を始めた。 委員からは新防衛計画大綱について、防衛省は宇宙安全保障関連予算をどのように確保して行くか見通しを示してほしいとの指摘があった。

 政府が6月に宇宙開発戦略本部の会合を開き、宇宙基本計画の行程表改定に向けた重点事項を決定した。 宇宙安全保障の強化を重視し、自衛隊の宇宙領域専門部隊新設などについて宇宙航空研究開発機構(JAXA)や米国と連携して早期実現を目指す方針を明記している。

 日米両政府は令和5年度から自衛隊と米軍の宇宙状況監視 (SSA) システムを連結させ、リアルタイムで他国の衛星やスペースデブリなどの情報を共有すると共に、将来は他国衛星の攻撃などに備えた相互防護体制の構築を目指す。

 日米政府が4月の2-plus-2で、日本の衛星に米国の宇宙監視センサを搭載することでも合意し、宇宙での協力を前進させた。  宇宙分野の日米協力では、中国やロシアの軍事衛星の動向や衛星を破損させる恐れがある宇宙ゴミなどを監視するため、日本が打ち上げ予定の準天頂衛星に米国のセンサーを搭載することを決めた。

1・6・6・3 将来戦対応統合部隊の創設

 防衛省が、宇宙/サイバ/電磁波という新たな領域の防衛を担う統合部隊として、サイバ戦部隊や宇宙防衛部隊の創設を決めた。
1・6・6・4 電 子 戦

 防衛省が、令和2度末に健軍駐屯地に電子戦部隊を80名規模で発足させる方針で、令和2年度予算概算に関連経費を計上した。

 防衛省が人工衛星への電波妨害に備えようと新しい監視装置を開発する。 このため調査研究費を来年度予算に計上し、妨害への監視機能の保有に着手する。

 防衛省が令和2年度予算で、73式中トラ搭載のSIGINT/ECM装置や、新型SOJの開発継続に予算を計上している。
 新型SOJはC-2及びEP-3CのSOJ型開発である。

1・6・7 諸外国との防衛協力

1・6・7・1 多国間演習参加

 米タイ合同演習Cobra Goldが2月に始まった。 この演習には29ヵ国が参加し、野外軍事訓練、人道支援、災害救助の3部門で行われた。

 米国を核心とし頻繁に行われた3~4ヵ国演習にも参加した。

・ 3月:第2回目となる日米英三国海軍の合同対潜演習
・ 3月:日米豪から100機近い航空機が参加したCope North演習
・ 5月:米海軍第7艦隊が主催し日、仏、豪の5隻が参加しインド洋ベンガル湾で行われた合同演習La Perouse
・ 5月:海上自衛隊がグアムで米豪韓海軍と共同訓練
・ 7月:34,000名以上が参加した米豪合同演習Talisman Sabre 2019
・ 7月:日米印海軍が行った掃海訓練が青森県沖で
・ 9月:日米印海軍のMalabar年次合同演習が佐世保沖で
・10月:第3回目となる米比合同演習Kamandagがルソン島とパラワン島で
・10月:米沿岸警備隊と米海軍と比海軍及び海上自衛隊が参加した年次演習Sama Samaがパラワン島周辺の南シナ海で
・11月:韓国が参加した米軍主催の合同演習Pacific Vanguard
1・6・7・2 米州諸国との防衛協力

 防衛省が2月、自衛隊が安全保障関連法に基づいて行う米軍の艦艇や航空機の防護について2018年は16回実施したと発表した。 2017年の2回から大幅に増加した。

 政府が自衛隊と米軍による新たな日米共同作戦計画の検討に着手した。 陸、海、空に宇宙、サイバ空間、電磁波を加えた6領域を作戦計画の対象範囲に位置付け、複数の領域での同時多発的攻撃に備え、日米両部隊の一体的運用を図る狙いがある。

 米軍との共同訓練も行われた。

・ 6月:護衛艦いずもと米空母Ronald Reaganが南シナ海で
・ 1月:輸送艦くにさきと米海軍強襲揚陸艦Waspを中心としたARGが東シナ海で
・ 2月:陸上自衛隊水陸機動団と米海兵隊が第14回となる日米共同演習Iron Fistがカリフォルニア州南部で
・ 3月:米インド太平洋軍にB-52 1機が航空自衛隊及び米海軍と
・ 9月:米陸軍と陸上自衛隊が年次演習Orient Shieldを全国の演習場で
・12月:日本の有事を想定した自衛隊と米軍の大規模な図上演習ヤマサクラが朝霞駐屯地などで
 自衛隊とカナダ軍との物品役務相互提供協定 (ACSA) が5月に国会で可決承認された。 わが国との締約国は既に運用している米国、オーストラリア、英国、フランスを含め5ヵ国になる。
1・6・7・3 大洋州諸国との防衛協力

オーストリア

 岩屋防衛相が1月にパイン豪国防相と防衛省で会談し、両国の連携を一層強化するため円滑化協定の早期妥結に向け尽力していくと述べたのに対し、パイン国防相は、日本は重要な準同盟国であり、防衛協力をさらに深化させたいと応じた。
 この協定は両国が相互訪問して共同訓練など場合に、武器弾薬の取り扱いや、事件事故の裁判権などについて取り決めてるものである。

 河野防衛相が11月にレイノルズ豪国防相と会談し、訓練計画の調整などを目的に陸上自衛隊に豪陸軍の連絡将校を常駐させることを確認した。
 両相は豪空軍が主催する多国間演習Pitch Blackに2020年初めて航空自衛隊の戦闘機を参加させることや、日本で実施する日豪共同演習武士道 Guardianを定例化すること決めた。
 一方で日豪訪問部隊地位協定は、日本の死刑制度がすでに死刑制度を廃止した豪州との調整が難航している。

 航空自衛隊とオーストラリア空軍による共同訓練「武士道ガーディアン」が千歳基地を拠点に北海道沖の日本海や青森県沖の太平洋上で行われた。

ニュージーランド

 特筆すべき報道はなかった。

南太平洋諸国

 政府が自衛隊による他国軍への能力構築支援 (Capacity Building) をフィジーに拡大し、太平洋島嶼国の軍支援で日米豪3ヶ国連携が初めて実現する。

 米豪合同演習Talisman Sabre 19に参加していた護衛艦いせ、輸送艦おおすみが8月、陸自水陸機動団員がパプアニューギニアのポートモレスビーに寄港した。

1・6・7・4 インド、インド洋諸国との防衛協力

インド

 北村国家安全保障局長が11月、インドのドバル国家安全保障担当補佐官と会談した。 日印の物品役務相互提供協定 (ACSA) の締結に向けて協議したとみられる。

 茂木外相と河野防衛相が11月に初の日印2-plus-2に臨み、航空自衛隊とインド空軍の戦闘機訓練を日本で開催する方針で一致した。

 護衛艦いずもが5月24日、インド海軍と対潜共同訓練をインド洋上で行った。

 陸上自衛隊とインド陸軍が10月にインド北東部ミゾラム州バランテの軍訓練施設で行った対テロ共同訓練を公開した。

インド洋諸国

 日本政府がインド、スリランカとコロンボ港を共同開発する方針で、令和元年度中にも着工する。
 一帯一路を進める中国の動きをにらみつつ、日本が唱える自由で開かれたインド太平洋構想を後押しする。

1・6・7・5 欧州諸国との防衛協力

英  国

 複数の政府関係者が、政府が自衛隊と英軍との訪問部隊地位協定の締結を検討していることを明らかにした。

 1月にメイ英首相が、地域の平和の維持と北朝鮮の非核化達成のため2019年初めにTypa 23フリゲート艦を日本に派遣すると述べた。

フランス

 日仏両政府が1月に2-plus-2をフランスで開き、インド太平洋地域での海洋安全保障で連携を強化する方針を確認した。
 2-plus-2てでは、強引な海洋進出を続ける中国の抑止を念頭に、自衛隊と仏海軍の共同訓練を定期的に実施することを決めた。

 自衛隊とフランス軍と食料や弾薬、役務を提供し合う物品役務相互提供協定 (ACSA) が5月に国会で可決承認された。

 日仏政府が9月に外交当局間で海洋政策について議論する包括的海洋対話を初めて開いた。 対話は外務、防衛、環境、国土交通など関係省庁の審議官らが出席した。 今後年に1回程度定期的に開催する。

 フランスは4月から洋上哨戒機とフリゲート艦を佐世保海軍基地に派遣し、北朝鮮を監視するための海上巡回査察に参加している。

 外務審議官が9月にフランス外務省高官と会談し、中東の緊張緩和に向けた日仏の連携を確認した。 日仏両政府は米イラン両国の仲介を模索している。

ドイツ

 安倍首相が2月にメルケル独首相と会談し、両首脳は安全保障分野での協力を強めるため、情報保護協定の締結で大筋合意した。

イタリア

 安倍首相が4月にコンテ伊首相と会談し、両国の防衛装備品と技術移転に関する協定発効を受けて防衛協力を強化していくことで一致した。

1・6・7・6 東南アジア諸国との防衛協力

 防衛省が7月にASEAN全加盟国を日本に招き、航空防衛に関する初の実務者会議を開いた。 会議は2016年の日本とASEANによる防衛協力の指針「ビエンチャン・ビジョン」に基づくもので、加盟10ヵ国の空軍担当者らが出席した。

 フィリピンに対してはUH-1H用部品の無償供与や小型高速警備艇の無償供与などを行った。

 安倍首相が7月にベトナムのグエン・スアン・フック首相と会談し、防衛装備品の技術移転協定の締結交渉を開始することで一致した。

 海上自衛隊の護衛艦あさぎりが9月にマレーシア東部のクアンタン港に寄港し、マレーシア海軍と合同訓練などを行い交流した。

1・6・7・7 その他諸国との防衛協力

 安倍首相がカタールのタミム首長と会談し、両国の関係をより深めるため、経済や外交・安全保障について協議する外相級の戦略対話を新設することで合意した。

 安倍首相が12月にジャマイカのホルネス首相と会談し、海洋秩序の維持などに向けた協力を確認し、日本がジャマイカに新造の警備艇や救助艇を無償で供与することを記した交換公文を交わした。

1・6・7・8 海上保安庁の協力事業

 東南アジア海域における海賊対策のため海上保安庁の巡視船つがるが6月に函館港を出航し、海賊が出没しているインド太平洋海域の安全確保のた1ヵ月間、フィリピン、インドネシアと連携し東南アジア海域での警戒活動を行った。

 マレーシア沖の南シナ海で3月、同国の海難当局が日本の海上保安庁から海難救助の技術を学ぶ訓練が行われた。

 海上保安庁長官が6月、インドネシア海上保安機構長官と海上保安の協力体制を確認する覚書を交わし、合同訓練による両機関の能力向上や情報共有などを通し、協力関係を推進すると確認した。
 海保はこれまでに米国や韓国など8ヵ国の海上保安機関と協力を約束する文書などを交わしている。

1・6・7・9 技術協力、武器輸出

技術協力

 防衛省が研究開発分野での日米協力を強化しようとしており、防衛装備庁が7月、両国の代表が宇宙、サイバ、電磁波など複数の分野での協力について協議したことを明らかにした。
 日米両政府が米海軍Aegis艦に搭載するSPQ-9Bの後継となる新型レーダAMDR-Xを共同開発する方向で最終調整に入った。

 日仏政府が6月、航空機エンジンや座席など装備品に関する民間連携を強化することで基本合意し、経済産業省と仏民間航空総局が協力覚書を締結する。
 防衛装備庁が明らかにした令和2年度予算要求における研究開発項目の詳細では、次世代機雷探知技術を要求していることが明らかにされた。 この計画は2018年の日仏合意に基づく研究で、低周波/高周波ソナーの合成開口によりリアルタイムで機雷を探知しようとするものである。

武器輸出

 政府は、友好国と安全保障分野で協力を深めるため、2014年4月に共同開発と輸出のハードルを下げたが新たな原則のもとで始まった共同開発はなく、国産完成品の輸出もゼロが続いている。
 そこで防衛装備庁が防衛装備品の輸出について、従来の主体品だけで無く技術移転や部品等の輸出にも力を入れて行くことを明らかにした。 部品等の輸出ではかつてPAC-2の部品を米国に輸出した実績がある。 MHIが輸出したPAC-2部品はその後カタールに輸出されたが装備庁は関知していないという。

 武器の対外売り込み活動として、6月に行われたパリ航空ショーにC-2輸送機を参加させた。 C-2の同航空ショー参加は初めてで、前回初参加したP-1哨戒機も参加した。
 日本初開催となる世界最大級の防衛装備品の見本市DSEI Japanが11月に千葉市で行われた。

 北朝鮮が黄海の北方限界線 (NLL) 付近の咸朴島に設置したレーダは民生品扱いで日本から輸出されたものだが、韓国軍は軍事用に使用可能なレーダと見なしている。

1・6・8 装備行政

1・6・8・1 調達行政

防衛企業の育成

 防衛装備品の国庫債務負担期間を最長10年間と定めた時限立法の長期契約法の有効期限を2024年3月末まで5年間延長する改正案が成立した。

 防衛受注の減少が大きな問題になっている。 このため三菱重工業の防衛部門受注減や川崎重工と石川島播磨重工の防衛部門業績不振などが報じられた。

 コマツが陸上自衛隊向けに開発生産してきた車両の一部の新規開発を中止したことに関連して岩屋防衛相が2月、日本の防衛産業が安全保障環境に適応した高性能な装備品を十分に開発していないと指摘した。

 調達価格低減の努力として防衛省は一時、F-35の国内における組み立てから撤退の方針を示したが、国内での工程を見直して単価が下がり、継続しても問題がないと判断したたため、国内での最終組み立て継続に方針を転換した。

 防衛装備庁が防衛装備品のサプライチェーンを維持するため中小企業の支援に乗り出す。

 MHI社が長崎造船所香焼製造所をライバル企業である大島造船所に売却すると報じられたことについて同社は否定しなかった。 報道によると同社はLNGタンカの建造から撤退し、艦艇などの特殊船舶建造に特化するという。

防衛技術の保全

 防衛省が5月に防衛機密の漏洩を防ぐため調査研究などの入札に新たな規則を設け、経歴や国籍なども含めた総合評価方式にすることを決めてた。
 このため防衛省の調査研究にかかわる予算が、中国などに防衛機密が漏洩する懸念から執行できない状況になっている。

 欧米では中国を念頭に先端技術の流出防止措置が強化されており、防衛省も自衛隊装備品のサプライチェーンを構成する国内企業に対し、経営状況の監視を強化する方針を固めた。

FMS 方式調達の見直し

 会計検査院が10月に、防衛省の米国からのFMSでの購入案件について、製品未納のため決済が完了していない案件があると、防衛省に改善を促した。
 日本政府が韓国など10ヵ国に対し、米国から武器を購買するFMS 契約の改善交渉で共同対応を提案した。  今まで2国間で行われてきたFMS交渉を、今後は多国間の連携で有利に進めて不公正な慣行を減らすという。

1・6・8・2 技術力の維持向上

 政府が3月、イノベーション政策強化推進のための有識者会議が、武器や軍事転用可能な機微技術の流出防止策を検討すべきだとの認識で一致し、政府が策定する「統合イノベーション戦略」2019年度版に具体策を盛り込んだ。

 防衛装備庁が、民間の先端技術の活用に向けた管理機能を同庁の研究所の「先進技術推進センター」に集約し、同センターに所属所員の1/3がこれを担当する。

1・6・8・3 装備開発

令和2年度予算要求に見る装備開発

 令和2年度予算要求では、長波長/短波長合成開口センサを用いたリアルタイム信号処理の次世代機雷探知システム、従来の低空レーダ、沿岸監視レーダ、対砲迫レーダに代わる多用途レーダ、射程延伸型ASM-3の開発に161億円が計上されている。
 ASM-3は射程を従来の200kmから400km以上に延伸するもので、最高速度はMach 3に達する。

F-2 後継戦闘機

 令和2年度予算案に将来戦闘機の開発費が計上された。 また防衛装備庁に将来戦闘機開発室を新設することも盛り込まれた。

 F-2後継については共同開発相手を巡る日米の駆け引きが続いている。
 防衛省と米政府が、航空自衛隊のF-2後継開発で技術協力を深めることで合意したが、Lockheed Martin社はF-22とF-35の技術の開示しない方針を日本側に伝えた。
 一方Northrop Grumman社がF-2の後継機開発競合に参画する意向を明らかにした。 日本政府が日本主導の国際共同開発を選択した場合には、日本企業に重要な技術についても情報を開示する用意があるとの認識を示した。

 米航空有力誌について、共同開発相手国は英国か独仏西グループが最有力で、米国と組む可能性は極めて低いと報じた。

 日本主導で開発できるだけの技術力があるのか疑問を呈する声もあるが、大出力エンジンと高性能レーダ、そしてステルス技術の核心でもあるウエポン・ベイなどがすでに完成の域に達している。

 ただ政府は、自衛隊と米軍との共同作戦に最低限必要な環境を整えるため、情報や画像を共有する戦術データリンクやIFF装置は米側から提供を受けたい意向を米側に伝えている。

艦 船

 防衛装備庁が7月、平成30年度計画で建造される3,900t型護衛艦 (30FFM) の主要目と建造スケジュールを公表した。 基準排水量3,900t、速力30ktで、127mm62口径単装砲1門、VLS一式などを装備するが、予算取得済みの本型1~4番艦のVLSは後日装備とされる。

 海上自衛隊は2020年末までに排水量1,000tで乗り組み員30名の哨戒艦を12隻建造する計画で、次期中期ではその内の4隻を建造する。

 6月に開かれた海洋安全保障の国際会議と装備展示会で三井造船が、海上自衛隊が12隻の建造を計画している外洋哨戒艦 (OPV) への提案を公開した。 三井造船はMHIやマリンユナイテッド社と対抗して提案を行っている。
 提案されているのは排水量2,000tで、76mm砲1門のほか、遠隔操縦の12.7mm機銃2丁、自動USV 2隻などを装備する。
 11月に開かれたDSEI 2019展でJapan Marine United (JMU) 社が、次期LHDの初期段階設計を公表した。  この艦は全長220m、基準排水量19,000tで速力24ktの性能を持ち、ヘリ5機の飛行甲板とその下に5機の格納庫を持つ。

 新型Aegis艦が7月に進水しはぐろと命名された。 2021年3月に予定され就役後はAegis艦8隻態勢が整う。

 そうりゅう型潜水艦の最終艦となる12番艦のとうりゅうが11月に進水した。 就役は2021年3月になる。 とうりゅうは世界で初めて鉛蓄電池をリチウムイオン電池に代えた潜水艦の二番艦である。

 潜水艦しょうりゅう2,950tの引き渡し式が3月に行われた。 しょうりしょうりゅうはそうりゅう型の10番艦で、配備される呉基地に向かった。
 あさひ型護衛艦の二番艦しらぬいが2月に就役し、第3護衛隊群第7護衛隊の所属となった。 定係港は陸奥になる。

その他の開発計画

 防衛省が既に開発済みの射程200kmのASM-3を改良し、射程400km以上を目指す。 陸自の12式地対艦誘導弾の射程もを2倍に延伸する。
 防衛装備庁が5月、03式中距離SAMを元にした艦載SAMの開発を三菱電機に発注したと発表した。 この計画は2018年3月にも契約されている。

 2018年12月に初飛行した次期多用途ヘリUH-Xは現在は、平成30年度末には防衛省に納入されて官側の試験に入った。
 一方、防衛省は30~50機の攻撃ヘリを5年かけて装備する計画であったが、その調達は次期中期防には盛り込まれていない。

 政府は、電子攻撃機を開発する方針を固めた。 電子攻撃機の開発は、防衛計画大綱の内容を具体化するもので、C-2輸送機やP-1哨戒機に強力なECM装置を搭載する。

 防衛省が老朽化した96式装輪装甲車の後継開発を再開する方針で、候補にGDLS、Patria、MHIの3社を選定した。
 陸上自衛隊が富士総合火力演習で19式155mm52口径装輪SPHの試作品を展示した。 19式SPHはMAN社製8×8社に搭載されJSW社が製造した。
 防衛装備庁がDSEI 2019展で次期水陸両用戦闘車の模型を展示した。 またJapan Marine United社の子会社であるJMU Defense Systems社が2種類の水陸両用装輪車を公開した。
 DSEI 2019展ではこの他に、MHI社がCoasTitan沿岸警備システム、IHI社が機雷の自動探知AUVを出品した

1・6・8・4 導入新装備

F-35

 日本政府が2018年12月にF-35B 42機を装備する方針を決め、2019~2023年にそのうち18機を装備する。

 日本政府が米政府に対し6月、F-35計画にLevel Ⅲの完全なメンバとして参加することを公式に要請したが、米政府は日本からの要求を断った。

 防衛省は2011年にF-35A 42機を発注し、2018年1月にはF-35A 68機とF-35B 42機の購入方針を決めた。 この結果、全購入数は147機となり、英国が長期的に計画している138機を凌ぐ。

F-35 搭載武器

 Kongsberg社が3月、航空自衛隊からJSFを初めて受注したと発表した。
 Kongsberg社が11月、日本からJSMを$49.2M で追加受注したと発表した。 弾数及び納入時期等は公開されていない。
 同社は3月に最初のJSMを受注していた。

 ドイツTaurus社がDSEI 2019展で、KEPD 350 ALCMを空自のF-2及びF-15J搭載用に売り込んでいることを明らかにした。 同社は既に防衛省当局者に情報を提供しているという。

F-15J の F-15JSI への改修

 防衛省が201機保有するF-15の半数を大規模改造する。 F-15JSIへの改良点には、レーダを米空軍がF-15Eに搭載しているAN/APG-82(V)1 AESAレーダへ、ミッションコンビューを新型に換装すると共に、BAE Systems社製AN/ALQ-239ディジタル電子戦装置や対妨害性GPSの搭載などがある。
 また中期防で採用が決まったAGM-158 JASSM搭載に向けた改良も行われる。

E-2D Advanced Hawkeye

 Northrop Grumman社が、航空自衛隊のE-2D 1号機を3月に納入した。

 米国防総省が9月に航空自衛隊向けのE-2Dを更に9機売却すると発表した。 これで航空自衛隊向けE-2Dは既に受注している4機と合わせて13機になる。

U A V

 政府が尖閣諸島での監視警戒能力を強化するため、海上自衛隊の護衛艦に装備する大型UAV約20機の調達を検討している。
 機種としてはMQ-8C Fire Scoutが有力視されている。

1・6・8・5 将来装備の研究

 防衛省が11月に開かれたDSEI 2019で、2020年代に装備化する超高速兵器について明らかにした。
 開発しているのは超高速滑空弾 (HVGP) と超高速CM (HCM) で、それぞれ2段階で開発される。
1・6・8・6 その他の装備行政

 陸上自衛隊が3年間飛行を停止していたOH-1 37機の飛行を3月に再開した。

 自衛隊向けに砲弾や装輪装甲車輌等を生産してきたコマツが3月に装甲車輌の開発、生産から事実上撤退を決意した。




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